春をすっ飛ばして初夏が来たり、また真冬に舞い戻ったり……。年々季節がおかしくなっていることは渓流師でなくても気づく昨今だ。春爛漫(らんまん)であってほしいと祈念しつつ、3月24日の土曜日、長野県・木曽町の木曽川漁協管内の各所を釣り巡るべく車を走らせた。
木曽で今年初渓流
中津川インターを下車して国道19号を北上する。途中のコンビニで年券とランチを購入し、最初の目的地上松小川を目指す。
山深い木曽のこと、当然桜は硬いつぼみのままだが、例年と違うのは路肩に積まれた雪が全く見られないことだ。
時期外れの大雨のせいか、はたまた異常気象のせいなのか……。
車窓から眺める木曽川本流の流れは、いつもより相当太く感じられた。
小川に到着したのは9時少し前。
駐車スペースで着替えを済ませ、いつもの橋の下でサオを伸ばす。
イトの番手もわからないほど使い古して巻きっぱなしの仕掛けを手に取り、イクラをエサに戦闘開始。
情報通りなら解禁時に成魚放流があったはず。
その残りを狙って淵への流れ込みからゆっくりとカケアガリまで底をなめる。
白くなったイクラを交換すること数回。
待望のアタリとともに姿を見せたのは期待通りの放流成魚。
ただしイワナである。
ヌルを取ろうと流れに浸けた手のひらが切れそうなほど冷たい。
かたわらのネコヤナギは膨らんでいても、流れの中は真冬と知れた。
小川で見ることができたのは放流イワナとコッパアマゴ1匹ずつ。甘くはないと肝に銘じ、次なるポイントを物色する。
薮原まで一気に上がり、徐々に下りつつこれまでの経験と照らし合わせて川を見るが、味噌川ダムからの放水なのか、本流は水が高い。
巴淵や日義のダムでもサオを出してみたがアタリは皆無。
木曽福島の町中まで戻ってきてしまった。
大当たりの予感?
塩淵のエン堤も水は轟々だが、下流のダムへの流れは見た目緩やかである。
長ザオに持ち替えて堤防を足場に、流しながら下流に下るスタイルで仕掛けを送っていく。
平水なら砂地の底が見えるくらいの水深だが、この日の水なら結構な深さのはず。
本流シンカー0.5号で底をたたきながらミミズとイクラを転がしていく。
大きめの沈み石の向こう側を目印が進んでいく途中、コソッと小さなアタリが伝わった。
即座にあおったサオは空を切り、高切れしたミチイトが風になびいている。これだから横着はいけない。
反省してサオをたたみ、仕掛けを作り直す。
大物有望な木曽川本流、しかも大イワナの出やすい季節。
ミチイト1号にハリス0.8号をつなぎ、大きめのミミズをチョン掛けして再び流れに対峙する。
数回何の変化もない目印を追った後、ガン玉Bを足して流してみる。
案の定沈み石の向こう側で仕掛けは止まり、重過ぎだよ……との警告かと思いきや、上手へ引いたサオ先が一気に引き込まれた。
岩の横に潜んでいたヤツが、その場で居食いしていたようだ。
速さはないがかなりのトルク感を伴って水底を上流へ突き進む。
足場を少し移しながらサオの曲がりを確保して体勢は十分。
数回の締め込みを見せた後、あきれるほど太いイワナが水面に浮いた。
冷水にかじかむ手でストリンガーをつなぎ、2匹目のドジョウを狙って今度はイクラで同じ筋を攻めてみる。
そうそううまくはいかないと諦めかけたころ、再びサオは満月にしなった。
春一番の大イワナ
さっきのヤツとは反対に、今度は下流へ突進する。目いっぱい上手に倒したサオから伝わる重量感は数段上手。
転ばぬようにスタンスを移してなんとか耐える。
イト鳴りに背中が寒くなるが、張り替えたばかりの仕掛けを信じてサオを矯(た)める。時折浮いて頭を出す様子はまるで潜水艦だ。
寒さも忘れる数分の格闘の後、敵は足元の流れで口を開けた。
すくい上げたタモ枠から大きくはみ出した尾ビレがなんとも言えずうれしい。
46cmと44cmの大イワナ。
あきれるほど太くてこの上なく美しい。これだから春先の木曽はやめられない。遠くても寒くても足が向いてしまう訳だ。
道の駅で土産に買った豆餅をほおばりつつハンドルを握る。
車中から眺める空は、おそらくスギ花粉であろう春霞で薄く煙っていたが、一度もくしゃみをせずに終われたこの日の釣りに感謝しつつ木曽路を後にした。
<週刊つりニュース中部版 APC・三重渓流倶楽部・冨田真規)/TSURINEWS編>
▼この釣り場について
木曽川漁協