サカナの食べ方でまず思い浮かぶのは「お刺身」。しかしよくよく考えると、淡水魚をお刺身などの生食で見かけることはありません。これはなぜなのでしょうか。その背景にはとても恐ろしい寄生虫がいたのです。
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サカナの生食文化
四方を海に囲まれた日本では古くからサカナ料理が愛されており、世界を代表する魚食大国といっても過言ではありません。中でも特徴的なのが刺し身や寿司などの生食で、中国やアジア圏の一部の国では同様に食べられてはいるものの、ここまで文化として根付いているところは他にはありません。
この大きな理由としては、海から近くサカナがすぐに食べられたことや、衛生面に恵まれていたこと、鮮度を保つために様々な工夫が施されてきたことなどが考えられます。
しかし、よくよく考えると、生食で食べているのはマグロやタイ、アジやイカなど、どれも海のサカナばかりで、ほとんどの人は淡水のサカナを生食で食べたことが無いのではないでしょうか?
日本は海だけではなく、山や川にも恵まれており、コイやマス類を食べる習慣は古くからあり、食べる機会が無かったわけではないはずです。それなのになぜ、淡水魚を生食で食べることが無かったのでしょうか。
川魚が生食に向かない理由
実は淡水魚を生食で食べないことには大きな理由があります。
それは、淡水魚の多くには寄生虫がおり、食べてしまうと感染症になってしまうリスクがあるからなんです。
有棘顎口虫
淡水魚が元となる寄生虫の中で最も恐ろしいのは「有棘顎口虫(ゆうきょくがっこうちゅう)」でしょう。
顎口虫は人間の体内に入ると、幼虫の移動に伴い、皮膚の腫脹やみみず腫れなどが起こります。最悪の場合、内臓や眼、脳などに迷入することもあるそうです。
これらはそもそも犬や鳥などの宿主に寄生しています。犬や鳥の排泄物には寄生虫の卵が含まれており、何らかの影響で水中に持ち込まれると、ケンミジンコなどの動物プランクトンに食べられます。
その後、ライギョやドジョウ、河川ではマス類などの第2中間宿主の魚に食べられ、魚への寄生が成立します。そして約1月くらいで長さ3~4mmの幼虫になり、やがて直径1mm程度の皮嚢幼虫に成長し、筋肉に寄生をします。
私たちが普段食べているサカナの身は、まさしくこの筋肉なので、生食で食べてしまうと寄生虫は人間を宿主にかえ、人体への寄生を完了させてしまうのです。その後は胃の壁を食い破って肝臓やそのほかの内臓にダメージを与えたり、皮膚直下で動き回ったりします。
食べ方は加熱か冷凍
管理された釣り場で釣った魚は生食ができる場合がありますが、野生の淡水魚は生で食べないようにしましょう。食べ方としては、寄生虫は熱に弱いのでしっかり加熱するのが一番と言われています。
また、反対に冷凍してしまうのも一つの手です。この場合、マイナス20℃以下で3〜5日間凍結すると死滅すると言われています。家庭用の冷凍庫だとそこまでの冷凍能力が無いものもありますので確認が必要です。
一昔前までは、”刺身に醤油をつけると殺菌できる”や”お酢をかければ除菌できる”と言われたものですが、寄生虫のなかには調味料の殺菌が効かないものが多いです。このあたりの知識を誤解しないように気を付けて下さい。