淡水域の外来生物として有名なサカナと言えば、ブラックバスやブルーギル。ゲームフィッシュとして人気が高い前者に比べ、後者は意外と知られていない。今回は「ブルーギルは何しに日本へ?」をお届け。
(アイキャッツ画像出典:PhotoAC)
目次
ブルーギルの相方はブラックバス?
日本で特定外来種に指定されている魚で有名なブラックバス同様に、名前が挙がるサカナといえば「ブルーギル」ではないでしょうか。
ブラックバスがいる場所にはたいていブルーギルも生息し、反対にブルーギルがいる場所にはブラックバスがいることがほとんどです。バサー(ブラックバス釣りをする人の意)の中には、ブルーギルがいるかどうかで、そこの川や池にブラックバスがいるかを判断している人がいるほどです。
今回はスポットライトの当たりやすいブラックバスではなく、あえて「ブルーギル」について、調べてみました。
原産国はアメリカ
ブルーギルのもともとの生息地は、ブラックバス同様に北米大陸の中部から東部のエリア。アメリカやカナダにまたがる大規模河川や湖に広く分布しています。
ブルーギルは【スズキ目>サンフィッシュ科>ブルーギル属>ブルーギル】に分類されていますが、サンフィッシュ科には実はブラックバスも存在しています。
相方だと思っていたブラックバスは実はそう遠くない親戚、従兄弟くらいの存在だったということに驚きです。そして日本で悪食で知られるブルーギルですが、アメリカでは食物連鎖の下位に分類され、ブラックバスやトラウト、はたまたサギなどの生き物の重要なエサとなっています
日本で大きく育たない理由
日本で見かけるブルーギルの大きさは20〜25cmくらいが一般的ですが、現地の最大サイズのブルーギルは40cmくらいまで大きくなるのだとか。
そして意外かもしれませんが、日本ではブルーギルが30cmを超すほど大きく育つことは稀だということが分かってきています。その理由は、個体群が20〜30cm程度に達すると、やがてその湖沼のエサを食べつくしてしまいます。個体群がエサ不足に陥り、大半が5〜15cm程度の小型個体ばかりになってしまうからです。
日本に持ち込まれた理由
日本に持ち込まれたのは1960年頃。
当時の皇太子であった、明仁上皇が外遊の際にアイオワ州グッテンバーグで捕獲された15〜17匹のブルーギルをシカゴ市長から寄贈され、日本に持ち帰ったのが最初と言われています。
食料にできるかどうかの研究のため、水産庁淡水区水産研究所が飼育した後、1966年に静岡県伊東市の一碧湖に放流されました。
生息域が広まった理由
その後1980年代になってブルーギルの養殖や公的機関による放流は行われなくなったにも関わらず、生息域を日本全国へと広げていきました。日本各地への拡散のしっかりとした理由は今だに明確にはされていません。
その後の拡散には諸説あり
(1)ブラックバスのエサとして池に釣り人が拡散させた説
(2)水産試験場で増殖し、手が負えなくなったブルーギルを各地の河川や池に放流した
(3)養殖池から脱走した
などの理由によって各地に少しずつ拡散していき、現在では日本のほぼすべての都道府県でその生存が確認されています。
しかし、いずれの理由にしても、人為よるものや、当時のずさんな管理体制によるものであり、人間に手によって繁殖させてしまったと言っても過言ではないでしょう。
大繁殖出来る理由
ブルーギルが各地で大繁殖できる理由は大きく分けると3つあります。
1.雑食性であること
ブルーギルはかなりの悪食であり、水生昆虫、甲殻類、貝類、小魚、魚卵、虫、など様々な自分の口に入るものなら何でも食べてしまいます。
食料が少ない時には水草を食べてしまうこともあるのだとか。
中でも特に大好物なのが他種の魚卵や稚魚。他種の卵を食べてしまうため、ブルーギルは増えて、在来種はドンドン減っていってしまうという問題が発生してしまいます。
ブルーギルが在来魚に与える影響の詳細は必ずしも明らかにはなっていませんが、数多くに事例が存在します。
現に、滋賀県の瀬田月輪大池では、3万個体生息すると推定されたモツゴがブラックバスとブルーギルの影響により在来種のモツゴが消滅し、代わりに2万個体のブルーギルが確認されないことからモツゴはブルーギルによって絶滅させられたと考えられる事例も存在しています。
2.親が子煩悩であること
ブルーギルは産卵期になると、オスが産卵床を作り、メスとカップルになり産卵行動を行います。
産卵・受精が終わった後もオスは巣に残り、尾びれなどで丁寧に卵に新鮮な水を送ったり、ゴミが卵に付着すると水流を当てて取り除き、大事に卵を扱います。
また、卵に近づく他の魚や生物には威嚇をして追い払い、卵から孵化した後もしばらく保護を行います。そして1つの産卵床から出現する仔稚魚は5,000~22万に達するという報告があります。
このため他の魚よりも単純に生存率が高くなり、個体数が増えていってしまうのです。
3.体が丈夫であること
先にも述べたように、北米の温帯地域を生息域としているブルーギルにとって日本の水温環境が適しているという事が、第一に挙げられます。
またブルーギルは環境への適応能力も高く、少しくらいの汚染では何の問題もなく生息することが可能です。生活排水や工場の温排水が流れ込むような場所でも何の問題もなく、繁殖をしてしまいます。
そして流れの少ない環境を好むため、街なかの小さな野池でも、ある程度の水量が年間を通して確保できていれば繁殖することが可能です。
ブルーギルの現在の立場
現在、ブルーギルはブラックバスなどとともに、「特定外来生物」に指定されています。
彼らは世界の侵略的外来種ワースト100に選ばれており、韓国やイギリスでも生きた状態での持ち込みが禁止されています。
以前までは観賞用や、大型の熱帯魚の餌として販売されていましたが、外来生物法の制定により、2005年6月から、愛がん・鑑賞の目的で新たに飼養することは禁止されました。
現在も、研究や教育などの目的で飼養する場合には主務大臣から許可を受けなければなりません。
生きたまま持ち帰って育てることは禁止されています。絶対にしないでください。
食材としての利用
高度経済成長期に日本にやってきたブルーギルは、食料になるべく研究が進められてきました。
当時の街の河川は工場の排水などで信じられないくらい汚染されていて、そんな環境でも繁殖できるブルーギルは食料としてかなり期待されていたことでしょう。
実際に食べた人の感想は「非常に上品な味で、タイやスズキに似ている」のだとか。原産国のアメリカでは、ブルーギルやパーチといったフライパンに収まりやすいサカナはパンフィッシュと呼ばれ親しまれています。
調理法として、塩焼きや煮つけの他にもムニエルやアクアパッツアなどでおいしく食べることが可能です。
しかし日本の個体は小型のものが多く、また小骨が多いこと,皮が匂うことな どによって,養殖用としても人気がでなかったようです。そしてなにより、雑食性が強いブルーギルの腸の内容物が多く、悪臭の強い内容物が身に付着してしまうと風味が損なわれることが大きな理由だったようです。
当時は扱いきれなかったブルーギルも、スパイスや様々な調味料の存在する現代では、もしかしたらは調理法次第では流行るかも可能性も秘めています。
<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>