臭いがきつい食べ物は世界中にたくさんあり、日本にも世界に誇れる食べ物が存在します。そう、それが「くさや」。クサイという情報以外あまり知られていませんが、どのようにしてできたか、なぜ臭いがきついのかを解説します。
(アイキャッチ画像出展:PhotoAC)
くさやとはなにか
くさやは、伊豆諸島(伊豆大島・利島・新島・神津島・三宅島・御蔵島・八丈島)名産の魚の干物です。
原材料の魚には真アジ、カワハギ、サメ、ムロアジ、タカベ、ウツボ、サンマなど、伊豆諸島近海で取れた新鮮な魚が使われています。
これらの魚を開き、くさや液(くさや汁)と呼ばれる塩水に漬け込んだ後、天日で干して干物になったものが【くさや】として販売されています。
しかしスーパーなどでは簡単に購入することができません。どうしても食べたい場合は、インターネットから注文する必要があります。
「くさや液」はなぜできたのか
「くさや液」とは、魚を漬ける塩水のことです。通常の干物は、10%前後の塩水に1時間程度浸し、水気をとったものを乾燥させて作ります。
この時使用した塩水は数回使われた後に、すぐに新しいものに交換されますが、くさやはこの塩水を数十年~数百年もの間、塩を継ぎ足しながら使われ続けています。
これは伊豆諸島では、かつて塩も水もとても貴重だったことに由来しています。
干物を作るときに簡単に塩水を捨てることができず、塩を足しつつ漬け込みを繰り返すうちに、塩水が発酵していき、やがて「くさや液」ができたのです。
そして、このくさや液は古いものほどうまみがよく出るそうです。
どうして臭いのか
同じ塩水を使い続けるうちに、発酵した塩水には様々な微生物が生育するようになりました。
その一つが「コリネバクテリウム・クサヤ(クサヤ菌)」。
この「クサヤ菌」は乳酸菌の一種であり、これが塩と合わさることでうまみが生まれると考えられていますが、こういった微生物が生成する物質がくさやのにおいに関係しているようです。
におい成分について、アンモニアや酪酸、バレリアン酸などの有機酸、揮発性イオウ化合物が重要とされています。
なお、味との関連はあまり明らかになっていないそうです。
世界「臭いもの」ランク5位?
ちなみにくさやは世界の臭いものランキングでは第5位。臭気はAu:アラバスター単位で表記されます。
くさや(焼き立て)は約1267Au、ちなみにくさやは焼くことで旨味はもちろん臭いも臭くなります。加熱前は、約447Au程度しかありません。
ただ1267Auといってもピン来ないと人が大半だと思うので、以下3点程例をあげましょう。
・沢庵漬け(古漬け):約430Au
・臭豆腐 :約420Au
・納豆 :約452Au
焼く前のくさやの臭いは、納豆などと変わりませんが、焼いたあとは2倍以上。多少イメージできたでしょうか?
ちなみに余談ですが、世界一臭いと名高いシュールストレミングは約8070Au、おおよそくさやの7倍の臭さになります。
衛生面での問題なし!
臭いのせいもあり、腐っていると勘違いされることのある「くさや」ですが、衛生面の観点から見ても実は全く問題ないのです。
では、【腐っている】とはどういう状態なのか確認しておきましょう。
食品が腐るというのは、食品が微生物の分解によって劣化することを指し、これを「腐敗」と言います。
同じように微生物の分解が起こり、劣化するのではなく、別の食品に変化していくことを「発酵」と言います。
納豆やヨーグルトなども同様な発酵食品です。腐敗と発酵は同じようで、同じではありません。腐敗と発酵は人の価値観に基づいています。
実は人間にとって有益なものを発酵、有害なものを腐敗と呼んでいるのです。
くさやも腐ることがあるが、腐りにくい
発酵食品と言えど、長期間放置すればくさやも腐ります。
しかし、前述のクサヤ菌が一定数以上含まれたくさや汁で作られたくさやは、他の干物に比べて倍近く日持ちが良いです。
このクサヤ菌には、他の雑菌が繁殖するのを防ぐ働きがあるため、くさや液が完全に腐敗するのを防いでいるそうです。
ぜひ一度は食べて欲しい
くさやを食べたことは無いけれど、臭いということは知っているという方が多いと思います。
しかしくさやがどのような食品で、どういった経緯で作られたのかはあまり知られていません。そしてなにより、くさやが「美味しい」ということをもっと多くの方に知って欲しいです。
チャンスと勇気があれば一度食べてみて頂きたい逸品です。
最初は抵抗があるかと思いますが、その美味しさに、箸が止まらなくなること間違いなしでしょう。
<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>