水族館で「放流された観賞魚」を展示 本当に怖い「遺伝子汚染」とは?

水族館で「放流された観賞魚」を展示 本当に怖い「遺伝子汚染」とは?

外来種が我が国の環境にもたらす問題に関して、度々指摘される「遺伝子汚染」。一体どのように恐ろしいものなのでしょうか。

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その他 サカナ研究所

水族館で「放流された観賞魚」を展示

岐阜県各務原市にある、世界最大級の淡水魚専門水族館「アクア・トト ぎふ」はこのたび「放流された観賞魚」に関する特別展示を実施すると発表しました。

以前より我が国では、自然環境下には本来いないはずの観賞魚が河川や湖沼に生息している例が数多く確認されており、その殆どが人為的な放流によるものであると見られています。このような「観賞魚を野外に逃がす行為」が、もともとその周辺に住んでいた生き物へどのような悪影響をもたらすかについて紹介する展示となるとのことです。

水族館で「放流された観賞魚」を展示 本当に怖い「遺伝子汚染」とは?改良メダカ(提供:PhotoAC)

7月には同水族館の研究員を含むチームが作成した「岐阜県下で野外水域に放流された観賞用メダカ」の記録が研究成果として公開され、論文も発表されています。このメダカの生体展示を中心に、野外放流による悪影響を広く認識される手助けになるような紹介を行うそうです。

在来生物への影響を危惧

キンギョやニシキゴイ、ヒメダカといった、人工的に改良されて作られた観賞魚は我が国で根強い人気を誇っています。しかし近年、これらの魚の野外への放流による在来生物への悪影響が懸念されています。

これらの魚は国外から輸入された熱帯魚などと異なり、在来魚と種的にも遺伝子的にも近い存在。そのためもし自然環境下に逸出すると、そこで「遺伝子汚染」を起こしたり、病害の伝染源となってしまうことがあり、結果的に環境に対して大きなダメージを与えてしまうのです。

水族館で「放流された観賞魚」を展示 本当に怖い「遺伝子汚染」とは?ニシキゴイ(提供:PhotoAC)

現在、このような「野外に逸出した人工改良観賞魚」を、国外からの外来種、国内の別の地域から移入した外来種に続く「第3の外来種」と呼称することも提唱されています。

本当に怖い「遺伝子汚染」

さて、外来種問題において「遺伝子汚染」というキーワードはしばしば登場します。これは外来種が移入された地域(水域)において、その影響を受けて在来種の遺伝子情報が変化させられてしまうことを言います。

遺伝子汚染は、ブラックバスのような肉食生物が引き起こす「食害」などと比べるとその被害がぱっと見は分かりづらく、一般的にはあまり意識されていません。しかし、実際は食害と同等か、あるいはそれ以上の被害をもたらすこともある恐ろしいものなのです。

一般的に、同じ地域に生息する近縁の在来種同士は、容易に雑種を形成しないよう、生殖行為に至るまでの行動(配偶行動)が種ごとに異なっていたり、交接器の形状が大きく異なっていることが多いです。しかし全く別の場所で生育した外来種はそのようなことがないので、同じところに移入されると容易に交雑してしまいかねません。

水族館で「放流された観賞魚」を展示 本当に怖い「遺伝子汚染」とは?東日本では外来種であるカワムツ(提供:PhotoAC)

そしてこのような外来種と在来種が交雑して生まれた個体は、しばしば繁殖力、分散能力、競争力といった形質において、両親いずれをも凌ぐことがあります。このような個体はその地域において「突然現れた最強の存在」となってしまい、当該在来種だけでなく、近縁種たちをもその地域から駆逐してしまうことがあるのです。

在来種絶滅の可能性も

さらに、外来種個体と在来種個体の交雑によって生まれた雑種個体がもし不妊性であれば、もともとの在来種にとっては配偶子(卵子もしくは精子)の無駄遣いになってしまい、種の勢力が減ってしまうことになります。逆に妊性を持っていても、そのような雑種個体と在来種個体が交配する(戻し交配)ことが繰り返され、それによって外来種の遺伝子が在来種の個体群内に広がる「遺伝子浸透」が起こってしまいます。

結果として遺伝子汚染は最終的に在来種の個体群のほぼ全体に及び、その地域は「雑種しかいない」状態に。結論的には「在来種が絶滅」してしまう形となるのです。

このように、外来種を自然界に逸出させることは、その地域に「在来種の絶滅」という最悪の影響をもたらしてしまうリスクがあります。絶対にやってはいけない行為なのです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>