私が渓流釣にはまりだしたころ、がむしゃらに渓魚を追いかけていたもう今から20年程前の夏に体験した不思議な話を紹介します。
(アイキャッチ画像撮影:TSURINEWS編集部)
お盆休みに山深い谷で渓流釣り
8月のお盆休み、よく渓流釣に出掛ける奈良県のある村の渓流へ単独で行こうと計画した。が、お盆休みはキャンプをされる方をはじめ、奈良の渓流は多くの人で賑わう季節だ。そんな人混みを避けようと山奥の深い場所にある谷へ初めて入る計画をした。
その日は夜明けとともにその谷へ入った。この谷には谷沿いに道はなく、谷の入口に他の車がなければ誰も入っていない。つまり貸し切りで楽しめるということだ。この日も車は止まっておらず、期待にワクワクしながら準備をして遡行を始めた。
微かに香る線香の匂い
あまり反応が無いままテンポよく上がって行くと、微かに線香らしき匂いに気付いた。最初は除虫菊か何かだろうとあまり気にしなかったが、釣り上がるにしたがい線香の匂いが強くなってきた。何か嫌な気分になるが更に上がって行くと、誰も居るはずのない渓流で線香の煙が漂っているのだ。
この異常事態に釣りどころではなくなり引き返そうとすると、後ろの藪から人が出てきた。思わず声を出してしまったが、その人は私に「釣りですか?」と声を掛けてきたのだ。思わず声を出してしまい恥ずかしいおもいがしたが、その人を見ると腰に蚊取り線香を付けているのが見えた。
石探しの人に遭遇
勝手な想像で一人ビビってしまったことに少し笑えてしまうが、聞かれた質問に「そうです釣りなのですよ」と答え、私が逆に「何をされているのですか?」と聞くと「石を探しています」と答えが帰ってきた。あまり言っている意味がわからなかったが、気にすることもなく「上に釣り上がりますと」言って少し釣り上がることにした。
少しして、高巻きも困難な滝があらわれた。釣果は今一だが装備もないので早々に諦め、直ぐに引き返すことにした。なので、直ぐに先程の方と出会うかと思ったがその姿はなく、線香の匂いも全くしなかった。私と出会ったあと直ぐに帰られたかと思うが、どうもおかしい。
消えた石探しの人
来た道を引き返しながら冷静に考えてみると、不自然な点が浮かび上がり不安になってきた。先ずは車でしか来られない谷で私の他に車がなかったこと、しかも夜明けを待って入った谷なのに先にあの人がいたこと。そして、よく思い出せばジーンズに裸足という恰好だったのだ。真夏とはいえ渓流に似合わないスタイルに、石を探しているとよくわからないことだらけで、一気に不安におちいり慌てて車に戻った。
その後は特にかわりは無く帰路へ着いたが、以上が自分の中で違和感がありすぎて、あまり他の人には話すこともなかったお話だ。もちろんその谷にはあれ以来一度も入ったことはなく、これからもないと思う。こういう話を思い出すと夜中に山へ行けなくなるので、再び忘れるようにしたい。
<奈良鱒兵衛/TSURINEWSライター>