堤防からはお目にかかれないサイズ、様々な魚種と出会える磯釣り。険しい岩場を超えた先でまだ見ぬ出会いを求めて磯に通うアングラーは少なくないが、それゆえに堤防からの釣りとはまた違ったエピソード、トラブルが生まれる場所でもある。今回はそんな磯での冷や汗ものの恐ろしいお話だ。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター檜垣修平)
船で渡った磯で忘れ物
磯釣りでは、地続きでは行くことのできないポイントに船で降ろしてもらうこともある。まさに絶海の孤島にポツンと降りることもあるので、着いてから忘れ物に気づくとどうしようもないのだ。これは以前、職場の先輩と磯釣りに行った時のお話だ。
この日はエサ釣りでグレ狙いのフカセ釣行だったが、自分はとりあえず朝マヅメはいつもルアー釣りで何か釣れるものを釣る。自分が小ぶりなヤズを掛けている横で先輩はせっせとグレ用のエサを混ぜていた。
周りも明るくなり、自分もそろそろグレ釣りの準備に取り掛かろうかというとき先輩がこっちにやって来た。
「リール忘れた…」
先輩はあろうことか家にリールを忘れてきてしまっていたのだ。全ての荷物をひっくり返してもリールが見つからなかった時のあのヒヤッ…とする感覚は自分も過去に経験したことがある。
とりあえず先輩にはPEが巻いてあるが自分のルアー用リールを貸し出し、なんとか釣りは成立したようだ。もし一人で来ていたなら、磯で長い長いお昼寝になっていたであろう。
ロッドが組み立てられない
「磯での忘れ物は致命的」という話をしたが、今度は大事なモノを持ってきたのに実際は違ったというパターン。
この日は磯からのシーバス狙い。磯釣りではなるべく両手が空くようにロッドは肩にかけられるケースに入れて持ち運ぶ。
釣り場について、意気揚々と準備を進める。ロッドケースを開けて、2ピースの竿を繋げる。……繋がらない。違う長さの竿のティップを持ってきていたのだ。
某社のシリーズでタックル類は統一して揃えているので、使われているガイドや塗装はほぼ同じ、そのため気付かなかったのだ。
他の道具は全てあるのにこれではどうしようもない。これ以降朝家を出る前に確認する癖がついた。
タモ網がない
この日もまたシーバス狙いで磯に立っていた。朝イチのまだ薄暗い時間にはいかにもなポイントで魚を掛けるが、強すぎて止められずラインブレイクという釣り人にとって一番悔しい経験をした。
そのバラしたポイントは一旦寝かせる意味もあったが、もう2発目は出ないだろうと思い放置していた。他のポイントをあらかた探り尽くし、休憩も挟んでダレてきたタイミングだった。日も高くなっていたので、もう今日はダメそうだと思いつつ朝イチのポイントに投げ入れると大型のマルスズキが掛かった。
朝イチの反省もあり、バレるリスク覚悟で強引に寄せてきた。足元まで寄せてきた魚は、目測でも80cm、ランカークラスは確実なサイズだ。
しかしここでやらかしに気付いた。いつもは背負っているタモ網をさっき休憩した場所に置いてきていたのだ。堤防のような場所なら最悪低い場所まで誘導するか、他に人がいれば助けてもらうこともできただろう。しかしここは磯である。1.5mほどの崖のような磯場。自分以外は誰もいないし足場もよくはなく、そこから動けない。
朝なら潮が高くてランディングできた場所も、潮が引いておりずり上げることができない。抜きあげようにも重すぎて上がらない。どうするか?降りるか?と思考を巡らせているうちに、シーバスの口からルアーは外れ、ゆっくりと海へ帰っていった。
声にならない声が漏れ出た。なんとも言葉にならない瞬間であった。釣り人にとってある意味最も怖い瞬間である。
<檜垣修平/TSURINEWSライター>