過酷な自然界でたくましく生きる魚たちは、ときに外傷で体の一部を失っても生き抜くことが出来ます。その秘密はどこにあるのでしょう。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
たくましく生きる魚たち
魚釣りを趣味にしていると、しばしば「魚たちのたくましさ」に驚かされることがあります。
筆者はこれまで、釣り場で「尾鰭が完全に欠けたメジナ」や「後半身を失ってしまったコブダイ」「3分の2ほどになったアナゴ」に出会ったことがあります。いずれもその欠損は先天的なものではなく、何らかの外敵(あるいは漁網など)に襲われた結果のように見えました。
ヒトであればおそらく大量に失血し、生命が危ぶまれるような大怪我です。ましてや水中という血の止まりそうにない環境で受けてしまっているにも関わらず、死んでいないどころか、背鰭や尻鰭など周囲の鰭を発達させ動きを補っていました。
さらにコブダイに至っては、メスからオスに性転換しようとしていました。コブダイはハーレムを作り、群れのNo.1であるオスがいなくなると、No.2のメスが性転換してNo.1になるという生態を持ちます。つまり彼女は尾鰭を失ったというハンデを抱えながらも、群れのNo.2の地位を得ていたということなのです。
魚の傷はヒトの50倍早く治る?
自然界において、魚たちは魚食魚や鳥、水中生物、漁具などに襲われるリスクがあります。
しかし彼らはそれらによって大きな傷を負ってしまっても、非常に早く治ることがわかっています。治癒の速さは一説によると、なんとヒトの50倍にも達するそうです。
先日、魚たちがそれだけ早く傷を治すメカニズムの一部を、山口大などの研究チームが解明しました。
傷が早く治るメカニズム
魚や哺乳類では、皮膚が傷つくと「リーダー細胞」と呼ばれる、細胞たちの行動を先導する細胞を先頭に、上皮細胞が集団で傷を塞ごうとします。
このときヒトの場合では、特定のリーダー細胞が後続の細胞たちを引っ張り、傷の治癒を行う部分がアメーバ状に広がっていきます。
しかし魚では、リーダー細胞同士が数珠つなぎになって円状に拡大していきます。さらに連携したリーダー細胞が後続の細胞を引っ張り、新たなリーダーとして先端に置くことで、スピーディーに傷口を細胞で覆っていくということが分かったそうです。(『秘密は「リーダー細胞」、魚が傷を治すスピードは人の50倍…傷痕残さない治療法研究へ』読売新聞 2022.5.19)
今回「傷が早く治るメカニズム」が判明したので、これからは「傷がきれいに治癒する」点に着目し、研究を進めるそうです。これが明らかにできれば、傷痕を残さない治療法の開発につながる可能性があるとのことで、我々一般人としても期待が高まりますね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>