古い時代から世界中にその伝承が残る想像上の生物・人魚。そのモデルとなった生き物についてはいくつかの説があるようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「人魚のミイラ」を研究
岡山県倉敷市の倉敷芸術科学大学がこのたび「人魚のミイラ」について科学的に分析し、その研究結果をまとめたというニュースが話題となっています。
この「人魚のミイラ」は、同県浅口市鴨方町の寺院に古くから伝わるものです。ミイラ全体を観察すると頭部に歯、手には爪、下半身には鱗のようなものがあるのですが、いま世界で存在が確認されている生物の中で似たものはいないといいます。
このミイラについては今年2月から研究が進められており、このほど中間報告がまとまったそうです。
哺乳類と魚類の特徴を持つ
この研究の結果、ミイラから抜け落ちた体毛の表面に「キューティクル」があることが確認されています。キューティクルは毛の表面を覆っている丈夫な膜のことで、人間や他の哺乳類に共通する特徴となっています。
その一方で、「鱗」のようなものが下半身だけでなく腕や肩、首など上半身にも見られたといいます。したがってこの「人魚のミイラ」は、哺乳類と魚類の両方の特徴を持ち合わせているということになります。
なお、CT撮影による内部構造調査では、首と背鰭に何かを固定するような金属製の針が刺さっていることも確認されました。かつて江戸時代ごろ、いろいろな動物のパーツを組み合わせて「ミイラを作る」ということが流行したことがあるそうですが、これが関係あるのかは今後の調査ではっきりするかもしれません。
人魚のモデルは?
今回のミイラのように、人魚は「人間と魚類の特徴を兼ねそなえ、基本的に水中に生息する」とされる生物です。その伝説・伝承は世界中に残っており、例えばヨーロッパにおける人魚は「人魚姫」「セイレーン」に代表されるように、上半身がヒトで下半身が魚類となっているものがほとんどです。
一方で日本に伝わる人魚は一見すると人間そのものの見た目であるものや、ヨーロッパのものと同じような「上半身がヒト、下半身が魚」のものとが混ざっています。後者は外国の文化の影響を受けていると考える人もいるようです。
面白いのはこのような「人魚」伝承が、世界中が情報でつながる以前から各地に存在してきたということです。一体、そのモデルはなんなのでしょうか。
我が国では「人魚のモデルは水性哺乳動物のジュゴン」だと広く言われていることをご存じの方も多いと思いますが、実はジュゴンは日本の自然環境下には生息していません。にも関わらず、明治時代にジュゴンの存在が知られるようになる以前から、日本にも人魚伝説は存在するのです。
このことから、日本にはジュゴンではない、日本ならではの「人魚のモデル」がいたと考えるのが自然でしょう。現状、そのひとつは深海の巨大魚「リュウグウノツカイ」ではないかとされています。確かに彼らの長く伸びた背鰭や赤と銀の派手な色合いは、十二単を着た華やかな女性を連想させるのでさもありなんという気がします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>