全国で作られている「サンマの丸干し」。地域の特産物として愛されていますが、その味わいには大きな差があるようです。
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「サンマ天日干し」の製造が始まる
全国有数のサンマの水揚げを誇る宮城県女川町で、今年も「サンマの天日干し」の生産が始まっています。サンマを一斉に干す風景は冬の風物詩として親しまれており、女川町の水産加工会社では特製の塩だれに一晩漬け込んだサンマ数千匹がずらりと干しあげられました。
ニュースでも盛んに報道されていますが、今年も日本沿岸でのサンマ水揚げ高は低水準となりました。女川魚市場での2021年のサンマの水揚げ量も、過去最低の約1200tにとどまり、生産量は例年より大幅に少ない30万匹にとどまる見込みです。
サンマ丸干しの天日干し作業は3月下旬まで続くそうです。
三重でもサンマ丸干しを製造
宮城と同様に「サンマの丸干し」が名産品となっているのが、三重県熊野市周辺地域。ここでもまた、古くから丸干しサンマが作られてきました。
熊野地方のサンマの丸干しは、真冬に水揚げされる「寒のサンマ」で作られるものが最上品とされます。11月から翌4月くらいまでが生産のピークになるようです。
こちらの丸干しも、近年のサンマ不漁に苦しめられて生産量は減っているそうですが、根強い需要があります。
サンマの魅力はどこにあるのか
宮城のサンマ丸干しと熊野のサンマ丸干し、いずれも使用するのは同じサンマですが、これら2つの産地の「サンマ丸干し」には非常に大きな違いが存在しています。それは「脂の量」です。
宮城のサンマ丸干しは、焼くと滴るほどに脂が乗っており、そのジューシーさと脂の甘味が大きな魅力です。一方、熊野のサンマ丸干しは脂が乗っておらず、身がギュッと締まっています。宮城のそれとは対象的に、濃厚でソリッドな身の味わいが魅力といえます。
サンマは産卵のため冬にかけて日本沿岸を南下するのですが、その際に大きな移動を行うので筋肉が締まる一方、身の脂が落ちていきます。熊野で水揚げされるサンマは身の脂が落ちきっており、そのようなサンマを三重や和歌山では好んで食べてきた文化が存在するのです。
昨今の脂ブームから考えればあまり魅力的に聞こえないかもしれませんが、カチッと干し上げられた干物や、和歌山で作られているサンマ棒寿司を食べるとその美味しさに驚かされます。
所変われば魚の魅力も変わる、ということを教えてくれるのがサンマという魚なのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>