千葉の貝塚から大量に出土するも、利用用途の不明だった巻き貝。最近の研究で、この貝で「日本最古の調味料」が作られていた可能性が示唆されているといいます。
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日本最古の調味料?
日本最大級の縄文時代の貝塚「加曽利貝塚」がある千葉県千葉市。ここで今、とある「海産物」を使った調味料が開発されています。
その調味料は「日本最古」という説もあるもので、地域では「新たな特産品になるのではないか」と期待されているというのですが、一体どういうものなのでしょうか。
貝を使った調味料
この開発中の調味料の原料として用いられているのは「イボキサゴ」という貝です。加曽利貝塚で出土する貝の、実に8割以上を占めるといいます。
それだけ大量に食べられてきたということであればさぞ美味しいのだろうと思うのですが、実はこのイボキサゴ、大きさは2cm程度という小さな貝。それに加えて「巻き貝」であるため、中身を取り出して食べるのは中々に手間で、これがメイン食材として食卓に上っていたとは考えにくいのだといいます。
そのため、このイボキサゴはそのまま食べられたというワケではなく、その「出汁」を利用したのではないか、と考えられています。そういうわけで、今回開発された調味料も、この貝を使ってとった出汁を煮詰めたものなのです。
イボキサゴは現在でも千葉市沿岸には少なからず生息しているのですが、これまで利用されることはほぼなかったと言います。当然ながら食用という認識もなく、取るに足らない巻き貝が特産品になればそれなりの経済効果も期待できるでしょう。
キサゴの仲間はどれも美味
イボキサゴはキサゴという貝の仲間です。キサゴ類は国内には3種確認されているのですが、このうち標準種であるキサゴとイボキサゴは内湾の砂泥底に生息するのに対し、ダンベイキサゴという種は外洋の砂底に生息します。そのため千葉県内においても、東京湾側ではイボキサゴが、太平洋側ではダンベイキサゴが漁獲されています。
キサゴ類はいずれも味はよく、キサゴとダンベイキサゴはサイズがやや大きいことから、食用に漁獲され流通しています。「ナガラミ」という地方名で呼ばれることのほうが多いようです。イボキサゴ自体も小さいながら味はよく、漁師の中には手間を惜しまずに好んで食べる人も少なくないといいます。
なお、このキサゴ類はいずれの種も殻の色の変異が大きく、同じ種類であってもそうは思えないほどにカラフルです。このカラフルさと丸い形状から、江戸時代にはおはじきとしても愛されていたそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>