夜になると、多くの漁船が船上の強力なライトで海面を照らしながら漁を行います。このいわゆる「漁火」、一体なぜ魚を採るのに役に立つのでしょうか。
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台湾の伝統的な漁火漁
台湾北部の沖合では、夏場の夜になると「ボンホエイアー」という伝統漁が行われています。「漁火漁」の一種であるこの漁、一体どのようなものなのでしょうか。
漁場である内湾の浅い海の上でボンホエイアーは行われます。まず漁師の一人が発火性のガスを発生させ、それを使って棒の先に火をつけます。その火で海面を照らすと、何百匹ものサッパが海から飛び出し、他の漁師たちがそれを漁網ですくい上げます。
ボンホエイアーはかつては盛んに行われていた漁だったそうですが、台湾でサッパがあまり食べられなくなるにつれて下火になっていきました。サッパ自体の減少もあり、今ではこの漁を行う漁船はたったの一隻にとどまるそうです。
それでも、観光客向けにこの漁法を間近で鑑賞できるツアーが定期的に開催されているといいます。
漁火とは
「漁火漁」は、字の通り漁火を用いて行われる漁のこと。ちなみに漁火と書いて「いさりび」と呼ぶのが一般的ですが、「ぎょか」と音読みすることもあります。
漁火は漁師が魚を漁獲するために用いる明かりのことです。かつては松明などの炎が使われていましたが、今では照明機材を用いることが多くなっています。このような場合「集魚灯」とも呼ばれます。
光で魚が捕れる理屈
明かりを焚くことで魚を捕まえる方法には、実はほぼ逆と言っていい2つの方法が存在します。
光で集める
ひとつは「光で魚を集める」こと。これは魚ではなくその餌であるプランクトンの性質を利用します。
プランクトンには「走光性」といって、光を向けると集まってくる習性のあるものがあります。水面を照らすとそういったプランクトンが集まってくるのですが、すると今度はそれを食べる小魚が集まり、さらにそれを狙ってイカや大型魚が集まってきます。こうして、漁師たちは狙いの魚介を効率よく漁獲することができるのです。イカ漁船の集魚灯はとくに強力なことでとくに知られています。
光で慌てさせる
もうひとつは「光で魚を慌てさせる」こと。これは魚の性質を直接利用するものです。
夜釣りなどをするとき、夜の水面をライトで照らすと、小魚がパニックになって泳ぎ回り、壁に激突したり浜に打ち上げられてしまうことがあります。これを利用し、予め設置した網や漁具に魚を追い込んだり、飛び出してきたものを捕獲することができます。
上記のボンホエイアーもその理論を用いたもの。日本では高知県で行われている「アユの火振り漁」が有名です。
このように、一言で「明かりを利用して魚を捕る」と言っても、全く逆の方法が用いられているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>