高級エビの代名詞・イセエビの漁が各地で解禁されています。イセエビの可食部は腹部の筋肉や頭部のミソ(中腸線)ですが、しかし漁の上では「ヒゲ」の有無がその価格を大きく左右します。
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イセエビ漁が解禁
先月末から今月頭にかけ、全国各地でイセエビの漁が始まっています。イセエビは多くの地域で資源保護のため、産卵期にあたる初夏から3か月ほどの間が禁漁となっており、それが解禁された形です。
イセエビ漁は南の地域から順に解禁されていく傾向があります。イセエビ自体も比較的南方系のエビといえ、これまでは茨城県がイセエビ漁の北限とされてきました。しかし、ここ数年はより北にある福島県いわき市沖でも安定的に採れるようになってきているといいます。
イセエビは刺し網漁で漁獲されることが多いのですが、漁獲されたエビは「手鉤」というL字型の道具や手を使って、丁寧に外されていきます。新型コロナウイルスの影響で、イセエビも価格の低下が見られるそうですが、それでも大きめの個体は1kgあたり4000円を超す高値で取り引きされるといいます。
イセエビってどんなエビ?
イセエビは水深40mまでの浅い海に生息する大型のエビで、大きいものは2kgほどになります。しばしばロブスターと混同されていますが、あちらはザリガニと近い仲間なのに対し、イセエビはまさにエビです。
彼らは昼間は岩棚や岩穴の中に潜み、夜になると這い出てきて餌を探します。肉食性で貝類やウニなど色々な小動物を主に捕食しています。
天敵はタコやイシダイ。とくにタコはイセエビの巣穴にまで入り込んで襲ってしまいます。そのため、タコの天敵であるウツボとイセエビが同居している例もよく見られるそうですが、しかしウツボの胃袋からイセエビが出てくることも珍しくはありません。
かつて三重県伊勢地方で多く獲られたことから「イセエビ」という名がついたとされ、今でも三重県は千葉県と漁獲量1位の座を争っています。
イセエビの価値を決める「ヒゲ」
イセエビはその威勢のよい見た目から縁起物として扱われることも多く、しばしば殻ごと調理されます。その代表的なものが「具足焼き」「具足煮」で、イセエビをそのまま、あるいは梨割りにして焼く・煮るというものです。
具足とはもともと「満ち足りている」という意味で、とくに武士の鎧兜のパーツがひとつも欠けていない状態をいいます。そのため具足焼きにするためには、イセエビのパーツがすべて揃っていることが条件となります。
イセエビはその長いヒゲ(触角)が非常に特徴的ですが、しばし敵に襲われたり、また漁のときに傷ついてヒゲが取れてしまうことがあります。ヒゲが取れてしまうと、その価値が半減するとも言われるため、漁師はヒゲの扱いに何よりも注意を払うそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>