瀬戸内地方最大の都市に面する広島湾。冬はカキの養殖が有名ですが、夏はまた別の海の幸が盛んに漁獲されます。
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広島の夏の味覚「小イワシ」が解禁
瀬戸内海にある小さな内湾・広島湾。中国地方最大の都市である広島市に面する「前海」です。ここで6月上旬、夏の風物詩とも言える「小イワシ漁」が解禁されました。
10日午前5時すぎ、広島市中央卸売市場に到着した小イワシ漁の一番船が、シーズンの始まりを告げました。初日の小イワシは約10cmとやや「大ぶり」で、例年より1箱につき1,000円ほど高く取引されました。
今年は新型コロナの影響で飲食店での需要がほぼ無く、販売量は感染拡大前の7割ほどにとどまったそうです。それでも市場では「例年通りではなくとも、販売できたことは嬉しい」との声が出ているといいます。(『夏の風物詩 小イワシ漁解禁 シラス漁も 広島』広島ホームテレビ 2021.6.10)
「小イワシ」はカタクチ
この「小イワシ」ですが、実は「イワシの子」ではなく、立派な成魚です。標準和名はカタクチイワシという種で、最大でも15cmほどにしかならないため、当地では「小イワシ」と呼ばれています。
日本で最も親しまれているイワシ類「イワシ御三家」と呼ばれるもののひとつですが、ほかの2種「マイワシ」と「ウルメイワシ」がニシン科なのに対し、カタクチイワシはカタクチイワシ科というグループに属しており、形態にも大きな差があります。
彼らは口が大きく裂けていて、下顎が上顎に比べ薄く「無いように見える」ことから「片口いわし」の名がつきました。全国各地の沿岸に多く、初心者にも簡単にたくさん釣れることから、漁業よりも釣りの対象魚としてよく知られています。
広島のイワシが特別なワケ
その一方で、食材としては以外に身近なカタクチイワシ。一番需要が大きいのはやはり「いりこ」で、瀬戸内ではダシの原料として最もメジャーなものです。大きなものは目刺しやからあげの材料として需要はあるほか、近縁種である「アンチョビ」の代用品として用いられることがあります。
実はカタクチイワシという魚自体は漁獲量自体は少なくありません。しかし鮮度落ちが非常に早いという欠点があり、漁獲されても鮮魚は生産地で消費され、都市部まではあまり出回りません。本当は生食でも美味しい魚ですが、多くの地域では自分で釣らない限り不可能なのです。
しかし、広島ではカタクチイワシは「刺身」で食べられています。これはカタクチイワシの漁場が港の目の前であり、漁獲から水揚げが迅速に行えるのが理由です。また市場のセリの時間に合わせて早朝に網を引き出荷するという漁業者の努力の賜物でもあります。
新鮮なカタクチイワシは身が締まっていてうま味が濃く「イワシの中で一番美味い」と言われることも。生姜醤油で食べるとまさに絶品です。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>