いま、全国各地で「温泉水」を用いて行う魚の養殖に注目が集まっています。海水を使った養殖にはない「利点」がその理由のようです。
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“温泉施設”で魚の養殖
三重県桑名市にあり、ジェットコースターの充実した遊園地があることでも知られる長島温泉。ここでいま、余剰温泉水を用いた魚の養殖がちょっとした話題になっています。
養殖を行っているのはとある温泉旅館。ここでは以前別の源泉から温泉を引っ張っていたのですが、その施設の修理の際に偶然温泉水の源泉を掘り当てることに成功したそうです。
その源泉の噴出量が想定よりも多く、余剰となる温泉水が出たのですが、それを排水していた水路に本来この地域にいるはずのない魚が泳いでいたのを見つけたそう。それがヒントとなり「温泉で魚の養殖を始めよう」と考えるに至ったそうです。
はじめはヒラメの養殖からスタートしたそうですが、やがてトラフグやサツキマスなどの高級魚をも育てるように。保健所の許可もおりて、4月からは併設のレストランで提供される予定だそうです。(『“温泉施設”で魚の養殖 源泉掘り当て開始 4月以降は料理として提供も 三重・桑名市』中京テレビニュース 2021.3.19)
全国で行われる温泉水での「トラフグ」養殖
火山国である日本は、他国と比べ温泉の数が非常に多くなっています。そのため温泉水や地熱は、クリーンでサスティナブルなエネルギー源として様々な産業に活用されています。
上記のような「魚の養殖」もそのひとつです。中でも盛んに養殖されているのが「トラフグ」。
初めて温泉水養殖が行われた栃木県を始め、本来トラフグが漁獲されない北日本や、海のない内陸県でも育てられるようになっています。
いったいなぜ、そのようなことが可能になっているのでしょうか。
なぜトラフグの養殖に向くのか
トラフグの温泉水養殖では、海水同様に塩分を含む「塩化泉」を利用しているところが多くなっています。内陸県や海から遠い地域において、温泉水は「豊富に手に入る塩水」だといえます。
また、海水よりも塩分濃度の低い塩化泉の温泉水は、トラフグの体液と浸透圧が近く、養殖にあたり魚体にダメージを与えにくいという利点もあります。もちろん水温も高いため、餌を盛んに食べ、早く成長させることが可能です。
加えてトラフグは養殖ものであっても高級魚であることに変わりはなく、魚価が高いために産業化しやすいという最大のメリットがあります。これらの理由から、全国各地で温泉水によるトラフグの養殖が行われているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>