世界最大の海洋プラスチックごみ排出国のひとつと目されるタイ。ここでいま、ダイバーたちによる「海底の漁網を回収する試み」が続けられているそうです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「漁網」再利用プロジェクト
東南アジアにある漁業大国タイ。長い海岸線を有するこの国では数年前から海洋プラスチックごみが問題になっています。そんなタイではいま、ダイバーたちが海に潜り、サンゴに絡まった漁網を切り離す活動を行っています。
「ネットフリー・シーズ(網のない海)」というこのプロジェクトでは、主にタイの漁業者が海中に放置していく網を除去しています。回収された古い漁網は再利用され、フェイスガードなど最近需要が増大しているプラスチック製品となるそうです。(『「幽霊」漁網回収で一石二鳥、生物保護とコロナ対策 タイの新事業』AFPBB News 2021.3.5)
廃漁具が起こす環境破壊
タイでは近年、漁業者が魚をとるために海中に張った網をそのまま放置してしまう例が多くなっているそうです。このような網は「ゴーストネット」と呼ばれ、海の生物にとってとても危険なプラスチック障害物のひとつとなります。
ゴーストネットはウミガメを巻き込んで泳げなくさせてしまったり、繊細なサンゴの着床礁に絡みついて枯らせてしまったりします。それに加え、放置したままにすれば何十年も漂流して、海洋生物が引っ掛かったり、餌と誤認して食べてしまうなどの被害もありえます。
ただ、このような「放置漁具」による環境への悪影響は決してタイだけで発生していることではありません。例えば、日本海では主に他国籍船によって放置されたカニ籠が、半永久的にカニを捕まえ続け、捕まったカニはただ死んでいくだけという「殺戮装置」になってしまっているという問題があるそうです。いまや放置された漁具による環境破壊は世界的な課題になっているのです。
マイクロプラスチック問題
かつては植物素材で賄われていた漁具がプラスチック製品化していったのは、漁業が近代化するためにはとても大切なことでした。現在では漁網やロープ、ブイ等のあらゆる漁具にプラスチックの素材が使用されています。
一方で「海洋」という波風や日光にさらされ続ける過酷な環境下では、プラスチックはあっという間に削れ、細かい破片となり、やがてマイクロプラスチックとなります。プラスチック漁具はいまや、マイクロプラスチック発生源として無視できないものになっているのです。
そのため日本では、水産庁の主導で「プラスチック製漁具の適正利用及び廃棄の呼びかけ」「プラスチック漁具ゴミの回収」「生分解性プラスチック製品への置き換え」などが進められています。
漁業者にも漁具ゴミや漁で回収されるプラスチックごみ(入網ゴミといいます)の収集を呼びかけると同時に、その廃棄処理費用負担を漁業者に負わせないで済むための体制づくりを進めているそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>