成人の日に絡む三連休に例年開催される「十日えびす」。主に西日本で盛んに行われている「商売繁盛」を祈願するイベントですが、長崎県対馬市のそれはちょっと変わっているようです。
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各地で「十日えびす」が開催
1月9日から11日にかけ、全国各地の恵比寿神社で「十日えびす」が開催されました。コロナ禍の今年は例年ほどの賑わいはなかったようですが、熊手や福笹を購入する人たちが数多く訪れたそうです。
十日えびすとは、商売繁盛の神様として名高い恵比寿様をまつるイベント。東日本ではあまり馴染みがないお祭りですが、西日本では各地で盛んに行われています。縁起物を飾った熊手が販売されるなど、関東の酉の市と類似点は多いです。
全国的に有名なのは、福男選びで有名な兵庫・西宮神社の他、大阪の今宮戎神社、福岡の十日恵比寿神社で行われる大祭などでしょう。
対馬の一風変わった十日えびす
さて、同日には長崎県の離島である対馬でも、十日恵比須祭りが開催されました。しかし、対馬の十日えびすは、一般的なそれとはやや様相が変わっています。
参加者は、対馬市美津島町にある恵美須神社で神事を執り行ったあと、美津島漁港へと向かいます。そしてそこで、漁協の若手組合員が「えびすさーん」と叫びながら、寒ブリやクエなどといった高級魚を港内に放流するのです。
今年はやはりコロナ禍の影響で参拝客が少なかったそうですが、例年は全国の市場関係者が集まる大規模な祭りなのだそう。しかし、なぜこのような行事となっているのでしょうか。(『「えびすさーん」叫び、寒ブリ放流 対馬・十日恵比須祭り』長崎新聞社 2021.1.11)
えびす様と漁業の関係
七福神の一人として名高いえびす様は、現在では商売繁盛の神様として篤く信仰されていますが、元来は海神であり、漁業神としての側面が強かったといわれています。釣り竿と鯛を抱えているのもそれが理由で、豊漁をもたらしてくれる神様として大漁旗に描かれることも多いです。
それが徐々に「市場の神様」としても認識されるようになり、やがて中世になると、商業の発達とともに商業神、福の神としての性質を帯びるようになったといいます。近畿地方を中心にそのような認識が広がっていったことが、現代の十日えびすの「西高東低」っぷりにつながっていると言えるでしょう。
それでも元来は漁の神様であり、したがって十日恵比須まつりで豊漁祈願が行われるというのは筋が通っているのです。高級魚をえびす様に奉納し、一年の豊漁を祈願するという趣旨のまま今に伝わっているのですね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>