「星を見るもの」という何ともロマンチックな名前を持つ魚がいます。しかし、実はロマンチックでもなんでもない「捕食行動」に由来する魚です。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
『ミシマオコゼ』の英名
スターゲイザー。つまり「星を見る者」というロマンチックな名前をつけられた魚がいます。
和名は「ミシマオコゼ」というグループに含まれるこの魚は、その英語名からは想像のできない、ぽってりとしたシルエットを持つ魚です。
ちなみにミシマオコゼという名前は、かつてその醜さで知られた「三島女郎」になぞらえて名付けられたもので、英名とは異なり、全くロマンチックさはありません。
彼らは泳ぎ回ることはあまりなく、基本的には砂に潜り、目だけを水中に出しています。そして常に真上を見ており、それがまるで天体観測をしているように見えるため、このような英名がついたのです。
なぜ「星を見る」のか
彼らはなぜいつも上を向いているのでしょうか。それは彼らが「待ち伏せタイプの捕食者」であるためです。
ミシマオコゼ類は遊泳力が高くなく、他の魚を追い回して捕食するのには向いていません。また、岩陰に隠れるような保護色の色彩も持っていません。彼らは海底の砂に潜り、上を通りがかった小魚やイカ・タコを捕食するという習性をもつことを選んだのです。
残念ながら、星を見ているというわけではない(そもそも海底から星は見えない)のですね…。
しかし彼らの持つ巨大な尾鰭がもたらす瞬発力はとてつもなく、捕食にかかる時間は0.1秒を切る早業で、常人の目では捉えることは不可能です。一芸に秀でた魚だということができるでしょう。
「夏のフグ」との異名も
このミシマオコゼ、実は見た目の醜さに反し、その味がとても良いことで知られるサカナです。
肉はゼラチン質が豊富で強い弾力があり、薄造りにするとまるでフグのような味わいが楽しめます。唐揚げや鍋にしても美味しく、じっくり煮立てると非常に良い出汁が出ます。
冬に旬を迎えるフグに対し、ミシマオコゼ類の旬は夏なので「夏のフグ」とも呼ばれます。フグと違い全身が無毒なので安全に食べられるというのも大きな魅力のひとつ。皮や卵巣、胃袋に至るまで非常に美味しい魚です。
知名度が低い分、フグと比べると遥かに安価に手に入れられるのも大きなメリット。定置網漁を行っている港ではしばしば水揚げされます。鮮度落ちが激しい魚ではありますが、活きたものが売られていたら購入することをおすすめします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>