イクラやトビコ、カズノコなど、親魚だけでなくその子(卵)も好んで食べる我々日本人。ですが、ときに毒を持つサカナがいるのでご用心。
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日本人が好む『サカナの卵巣』
魚を愛する日本では、古くからその子である魚卵もよく食べられてきました。「身の旬」と「卵の旬」のように2つの旬を持つ魚も少なくなく、また東北地方のババガレイ(ナメタガレイ)のように卵が入っていると値段が跳ね上がる魚もたくさんいます。
その調理法も魚種によって様々で、いくら、たらこ、とびこなど生食されるものもあれば、カレイやシシャモなどのように加熱して食べられるものもあります。
魚卵には多くの場合脂分が多く含まれ、身とはまた違った風味やコクが楽しめます。ぷちぷちとした食感も心地良く、白米にとても合うおかずになります。
卵巣に毒を持つ魚がいる
その一方で、魚の中には卵巣に毒を持ち、食用にできないものがあります。
フグ
有名なのはやはりフグでしょう。最高級食材であるトラフグの卵巣には443MU/g(卵巣1gで443匹のマウスを殺すことができる)という強毒が含まれ、塩漬けなどの特殊な処理を施さずに食べてしまうと、ヒトも死に至ります。
ナガヅカ
フグ以外にも「食用魚であるが卵巣は食べられない」というものがあります。タウエガジ科の「ナガヅカ」という魚は、身は高級すり身材料として珍重されていますが、卵巣だけには毒が含まれています。
ナガヅカはマイナーな食用魚ですが、北の海に多く、北海道では比較的食べられる魚です。そのため当地ではその毒性が知られていましたが、すり身原料として本州に流通するようになると、中毒事故が発生するようになってしまったそうです。魚卵を見るとつい食べたくなってしまう気持ちは、同じ日本人としてとても良くわかります。
卵巣をむやみに食べてはいけない?
フグの卵に含まれている毒成分は、他の部位に含まれるものと同じ有名な「テトロドトキシン」ですが、ナガヅカの卵巣の毒成分「ジノグネリン」は卵巣にしか含まれていません。しかしこのジノグネリンを持つのは、実はナガヅカだけではないのです。
ジノグネリンはナガヅカと近縁種のタウエガジや、カジカの一種、メダカの一種の卵巣からも確認されているそうです。これらの魚種で中毒事故が発生したという事例はないようですが、大量に摂取すると中毒の可能性があり、注意が必要です。(『自然毒のリスクプロファイル:魚類:卵巣毒』厚生労働省HP)
ちなみにタウエガジ科には、全国の浅い海に生息し、釣り人がしばしば「ぎんぽ」と呼ぶダイナンギンポも含まれます。釣り人によってしばしば食用にされており、美味しい魚ではありますが卵巣には注意が必要かもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>