食材のジャンルを問わず、一般的に「養殖物」は「天然物」と比べると一段低い評価をされてしまうことが多いです。しかし、世界で最も人気のある養殖種でもある「カキ」に関してはこれは当てはまらないといいます。
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世界中で愛される養殖種・カキ
世界的な需要増にあわせ、より多くの種類の魚介類が養殖されるようになっている現代。その中でももっとも広く、様々な地域で養殖されているのがカキです。彼らは二枚貝ながらひとつのところに固着して生育するという特徴を持っており、それを利用した様々な養殖が各地で行われています。
日本でも広島県を中心に全国各地でカキの養殖が行われており、現在では年間20万トン前後の出荷量があります。養殖量で言うとノリ、ホタテに次ぐ3位の量で、マダイやカンパチなども凌ぐ量になっています。(『養殖業の現状と課題について』水産庁 2017.3)
マガキは養殖品しか売られていない?
日本でカキの養殖が行われるようになったのは17世紀、江戸時代のことであると言われています。はじめは干潟に稚貝を撒くというシンプルな方法でしたが、やがて海中に吊るす「垂下式養殖」という技術が確立され、以降は主要養殖水産物としての地位を確立しました。
一方マガキそのものは自然界にも天然物が棲息しており、どのような海域でもごくありふれた存在となっています。最近東京湾奥の干潟で問題となっている「カキ礁」などのように、干潮時に完全に干出してしまうような場所でもマガキは容易に生育することが可能であり、採取も大変容易です。
しかし統計によると、マガキの養殖量と生産量はほぼ一致しています。つまり「出荷されているマガキのほぼ100%が養殖品」ということができるのです。(『わが国の水産業 かき』社団法人日本水産資源保護協会 2003.3)これには理由があるといいます。
ただし、夏に旬を迎えるカキ「イワガキ(岩牡蠣)」については逆にほぼ100%が天然物です。
なぜカキは「養殖のほうが良い」のか
実は、天然のカキ(マガキ)は一度採取されると、同じ場所に新たな稚貝が付着することはないそうなのです。そのために一度天然のカキを採取すると、同じ場所で再び採取するためには新しい漁礁を作るなどの環境整備が必要となり、非常に手間がかかるとのこと。
更に、どこにでも棲息できるカキですが、その一方で「品質の良いカキ」が獲れるようなところ(水深や環境)は限定的で、それに当てはまらない場所で生育したものはどうしても味が落ちてしまうといいます。(『真牡蠣と何が違う?夏が旬の岩牡蠣をもっと美味しく味わうための豆知識』@DIME 2019.6)
これらの理由から、天然のカキを漁獲するのは手間がかかり、なおかつ品質にもばらつきが発生してしまうため、流通に向いていないといえます。養殖の場合は品質の良いカキの養殖に好適な場所を選ぶ事ができる上に、品質の良いカキ同士をかけ合わせた”サラブレッド”を選んで育てることも可能であり、品質面でも価格面でも天然品が敵うものではないのだそうです。
一般的に養殖品といえば「人工的で天然物に敵わない」というイメージが強いですが、カキに関しては当てはまらないということが言えそうです。
記事内表記差し替えのご報告
記事内の一部表現を差し替えました。《2020年7月22日23:45》
<脇本 哲朗/サカナ研究所>