誰でも知っているのに、実は食べられるということが知られていない生き物はたくさんあります。そのひとつ「ヒトデ」について、食べ方と一緒にご紹介します。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
春が旬の「五本腕のウニ」
春が旬の生き物はたくさんありますが、その中には一風変わった生物もあります。
たとえば「五本腕のウニ」というものは聞いたことはないでしょうか。ゴホンガゼ(ガゼとはウニの別名)という名前で呼ばれているこの生き物、食用にするのは日本の中でも本当にごく一部の地域ですが、しかし非常にポピュラーな生き物。みなさんもきっと、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
ヒトデは食べられる
その生き物とは、
ヒトデ。「ヒトデを食べる」と聞くとゲテモノ食いのように思う人もいるかも知れませんが、中国などいくつかの国では食用にされています。日本では熊本県の天草地方で食べられており、食用にされる島の民宿では観光客も食べることができます。(『ガゼ(ヒトデ)食べましょう!』旅館ひのしま荘HP)
ヒトデは実はウニと同じ棘皮動物で、体のつくりには共通するものがたくさんあります。可食部となるのもウニと同じく体内の生殖巣で、味も近いものがあります。「ゴホンガゼ」の名はそこから来たのでしょう。
このヒトデ、種類的にはキヒトデ(マヒトデ)というものになります。熊本にしかいない特殊な種類なのかと思う人もいるかも知れませんが、実際は全国の浅い海に棲息しているごくありふれた生き物で、誰でも簡単に採取することができます。
海底のあらゆる生物を食べる獰猛な肉食動物で、とくに二枚貝を好んで食べるため、アサリやカキ、ホタテガイの養殖に大きな被害をもたらすこともあります。どちらかと嫌われ者でもあるヒトデが食べられると聞いたら、驚く漁師さんも多いかもしれません。
ヒトデの食べ方
ヒトデが食用にされるのは冬から初夏にかけて。個人的にはその中でも、卵巣が大きく膨らむ冬~春にかけてがおすすめです。
ウニと同じ部位を食べますが、ウニと違うのは、ヒトデには大量のサポニンという物質が含まれていること。サポニンはえぐ味の成分であり、生で食べると強烈な渋みで口がしびれてしまいます。そのためしっかりと加熱してから食べます。
手軽なのは塩ゆで。海水程度の濃度の塩水で10分ほどしっかりと茹で、粗熱を採ってからひっくり返して両手で持ち、ゆっくり割るように開くと可食部がむき出しになります。
味はコクがあり脂っぽさのあるウニのような感じで、ねっとりとしてとても美味です。ただ時に渋みが強い個体もあるので、そういうものは食べるのをやめたほうがいいでしょう。
ヒトデの仲間で食用になるのはこのキヒトデのみで、磯でよく見かけるイトマキヒトデなどその他の多くの種類は渋みが強すぎて食用になりません。また、釣りの外道としても知られるトゲモミジガイはフグ毒(テトロドトキシン)を持っており利用は厳禁。また、水質の悪い水域にも沢山棲息しているので、食用にするには綺麗な海で獲れたものにするのが無難でしょう。
個体の当たり外れはありますが、美味しいものはなかなかの美味であるヒトデ。いるところには大量にいる生き物なので、見かけて味が気になったら是非気軽に試してみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>