年を越すとメジナ(クロ)の声が聞こえてくる。 寒グロの声だ。メジナは年中釣れる魚ではあるが、寒グロは型もさることながら、何といってもその食味の良さにある。クロ師達が待ちに待った季節の到来だ。
(アイキャッチ画像提供:WEBライター・楢﨑 人生)
メジナが釣れない冬
例年なら寒グロの釣果が飛び交うシーズンに突入しているが、今年はまだクロが釣れているという情報が入ってこない。お隣の大分県では釣れているようだが、宮崎県ではコッパや手のひらですら釣果が聞こえてこない。
熱烈なクロ師である父は業を煮やしていたが、ある日突然「釣れなくてもいいからクロ釣りに行く。釣行日は1月30日。お前も準備しておけ」と宣言。そこで私は「クロが釣れないならヒラスズキでも釣ろう」という軽い気持ちで同行する事にした。
小場島に渡礁
釣り場は、宮崎県日南市の油津港から船で数十分程の沖磯。今回お世話になったのは一八宏丸(いちはちひろまる)さん。海が荒れて10日も船が出せなかったので当日の状況はまるで予測出来ないと言う。
当日もうねりで船が上下に揺さぶられた。それでも船に乗り込んだ8人の男達は期待に胸を膨らませて会話も弾む。
陽が昇り、島が見えてきた。決戦の時だ。私と父が上がった島は七つ岩の南にある小場島(おばじま)の北端付近、通称チョウチン。
ヘラブナ釣りの7割以上をチョウチン釣りに費やす私にはうってつけの名称だ。後で聞いた話だが、ここはクロだけでなくイシダイの好ポイントでもあり、実際にピトンの跡が多く見られた。
クロ釣りには最悪の状況
竿を出す準備にいそしんでいる間に辺りが明るくなってきた。海面を一瞥した父親が「この潮ではクロは釣れない」とつぶやく。確かに海は普段とはまるで違う。どこか遠い国の海の様な緑色をしている。
本来なら青く澄んでいかにも釣れそうなサラシが巻いているはずだ。さらに厄介な事に潮の流れが複雑怪奇で、コマセを撒く度に流れが変化して四方八方に散らばってしまい、魚を寄せる事が出来ない。仕掛けを打つとウキは毎回異なる方向へ流されていく。
さらに我々の心にとどめを刺したのは足元にコマセを打っても何の魚も寄らなかった事だ。これには流石に閉口した。「やる前に負ける事を考えるバカがいるかよ!」賽は投げられている。釣れそうにないからといって竿を出さない訳にはいかない。
沈黙の沖磯
釣り方はアミのフカセ釣り。開始早々にふわふわとウキが引き込まれ小さなイスズミが釣れた。吉兆である。クロとイスズミは生活圏がかぶっているのか、イスズミがいるとクロも釣れる可能性があるという有難いゲスト様なのだ。
しかし後が続かない。沖まで流して仕掛けを回収してもハリにアミがそのまま付いてくる。相変わらずエサ取りの姿さえも見えず、釣り人がスティーヴン・セガールならば『沈黙の沖磯』という映画が出来そうだ。