ヒトの精神に様々な影響を与える抗精神性薬物。実は水の中の生き物にも影響をもたらします。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
コカインでハイになったサケ?
先月末、鮭の一種であるタイセイヨウサケに関する、ちょっと人目を引く研究結果が発表されました。それはこの魚が「コカインでハイになった」可能性についてのものです。
回転寿司のとろサーモンなどで知られるタイセイヨウサケは、生涯の間に長い距離を移動する性質を持ちます。この稚魚について、薬物の一種コカインが溶け込んだ水域で育った個体とそうでない個体の行動の差について調べる研究が行われました。
サケの稚魚(提供:PhotoAC)その結果、なんと前者は後者に比べ1.9倍もの距離を泳ぎ回ったことがわかったといいます。コカインそのものではなく、それがタイセイヨウサケの体内で代謝されてできた「ベンゾイルエクゴニン」という物質によって起こった影響と見られています。
抗うつ剤でザリガニがハイに?
薬物による魚介類の行動異変に関する研究は他にもあります。例えばアメリカでは、抗精神薬剤が水中のザリガニの行動を変容させていることがわかっています。
アメリカで広く市販されているセレクサという抗うつ剤があります。この成分が溶け込んでいる河川や湖沼に棲息するザリガニは、一般的なザリガニと比べ行動が大胆になったのだそうです。
威嚇するザリガニ(提供:PhotoAC)一般的にザリガニは警戒心が強く物陰に隠れているのですが、影響を受けたザリガニは隠れ家から出てきて餌を探すまでの時間が、通常のザリガニの半分程度まで短くなっているといいます。まさに「ハイになって餌を探している」状態です。
なぜ魚貝類に薬物の影響が?
しかしそもそもなぜ、これらの魚貝類は薬物の影響を受けてしまったのでしょうか。これは決して科学者が水にこれらの薬を溶かして実験したわけではありません。
我々が利用している薬は、体内で効果をもたらしたのち、代謝されて排泄されます。これが下水処理でも完全に分解や濾過処理できず、一部が自然界に排出されてしまうのです。
川への排水(提供:PhotoAC)上記のような影響を受けた魚介類は、本来の性質から逸脱した行動をとることで敵に見つかりやすくなるなどの負の影響を受ける可能性があります。人々が濫用しがちな薬物類は、最終的には生態系にまで影響をもたらす可能性があるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>


