その栄養価の高さもあり「おふくろの味」として人気のヒジキ料理。かつての「鉄分豊富な食材」というイメージは幻想だったということがわかってしまいましたが、それでも我々の健康には非常に役立つ存在です。
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宮崎県でヒジキ漁スタート
宮崎県の北部に位置し、大分県と接する延岡市。その海岸で「春の風物詩」であるヒジキ漁が始まりました。
延岡市北部の須美江町では、水温が高くなり始める春の大潮の時期にヒジキ漁が始まります。入り江に面した遠浅の海岸では、潮が引くと岩場一面に1mほどのヒジキが姿を表します。採取時はかまを使って丁寧に刈り取っていきます。
温暖化の影響もあり、生息するヒジキは年々短くなっているといいますが、今年は質が良いものが獲れているそうです。収穫されたヒジキは、釜ゆでした上で天日干しで乾燥させ、延岡市内の道の駅などで販売されます。(『春の風物詩 ヒジキ漁が延岡市の海岸で始まる・宮崎県』宮崎放送 2021.4.16)
かつては「鉄分の王様」
代表的な食用海藻のひとつであるヒジキ。古くから栄養価の高い食材として知られており、とくに「鉄分」が豊富だというのは常識でした。
実際に、かつての釜茹でヒジキや乾燥ヒジキは鉄分を豊富に含んでおり、女性に起こりやすい鉄分不足を救う食材として高い知名度を誇りました。中食用の惣菜でも、「ヒジキの煮物」は定番の人気商品です。
しかし、2015年の12月に文部科学省が「日本食品標準成分表改訂版」を公表して以降、その事情は大きく変わってしまいました。それまでの版では「100gあたり55mg」とされていたヒジキの鉄分が、改訂版では6.2mg、実に9分の1となってしまったのです。
これは、ヒジキを釜茹でにする際に使う釜が、かつての鉄製のものから現在はステンレス製のものに置き換えられた結果だといいます。つまりヒジキはもともと鉄分を多く含むわけではなく、加工時に鉄釜で煮られることで鉄分を含むようになっていたということなのです。
それでも栄養豊富なヒジキ
しかし、あまり悲観する必要はありません。昔から「食べると長生きする」と言われるほど栄養価が評価されてきたヒジキは、鉄分がかつてより減ったとしても、変わらず「高栄養食材」と呼んで差し支えない存在です。
とくに豊富なのは亜鉛やマグネシウムと言った微量の必須元素類。とくに亜鉛は成人男性の多くが慢性的に不足している状態にあるとされ、現代においてより重要視されるべき栄養素です。
また、体の成長に欠かせないカルシウムやヨウ素が豊富なため子どもに食べさせたい食材です。さらに低カロリーな上ダイエットに役立つ食物繊維も豊富。
乾物ならば保存も効き、どんな料理にも使える汎用性の高さも魅力。今後もどんどん食卓に取り入れていきたい食材なのは間違いないでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>