年越しに「ニシン」を食べるという国が世界中にはいくつかあるのですが、そのひとつポーランドには、ちょっとユニークな名前のニシン料理が存在します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
世界各地にある「年越し魚」の文化
皆様は昨年末から今年の新春にかけて、どのような魚料理を食べましたか? わが国では御存知の通り、年末年始にかけ、タイやサケ、ブリなどのいわゆる「年取り魚」を食べるという文化があります。
そしてこの「年越しに魚を食べる」という文化は、実は世界中に存在しています。例えば中国語では「魚」は、余裕を表す「余」と同じ発音をするため「おめでたいもの」と考えられており、年末年始や春節などのお祝いには魚料理が欠かせないのだそうです。
また、中国の文化の影響が大きいシンガポールでも、刺身が食べられています。とくに好まれるのはサーモンで、色とりどりの野菜とともにサラダにして、運気上昇を願いながらかき混ぜて食べるそう。(『水餃子、サラダ、にしん… 世界各地で食べられる正月の開運料理』NEWSポストセブン 2021.1.17)
ヨーロッパで年越しに欠かせない「ニシン」
年越しに魚を食べるという文化は、アジアだけのものではありません。例えば北欧や東欧では、年明けの瞬間にニシンを食べると、その年を豊かに過ごすことができるといわれているそうです。
かつては日本にもニシン漁で財を成した人たちがいましたが、ヨーロッパの各地でもニシンはたくさん取れるために「富の象徴」とされました。身が銀色に光る様子が銀貨に見える、というのもその理由だそうです。
現在、日本においてはニシンそのものには年越しのイメージがありませんが、その子であるカズノコは年始には欠かせない食材です。その意味ではニシンは、いろいろな国で「めでたさ」につながる稀有な魚と言えます。
ポーランドグルメの「ニシンの日本風」とは?
さて、そんな「年越しにニシンが欠かせない国」のひとつに、ポーランドがあります。ポーランドの人はニシンが大好きで、一年中いろいろな料理で食べるのだといいます。
そんなポーランドのニシン料理に「ニシンの日本風」と言うものがあります。酢じめのニシンをゆで卵と一緒にマヨネーズ和えにしたもので、前菜として好んで食べられています。日本風と聞くと、醤油や味噌を使った日本的な味付けなのかな、と思ってしまいますが、実際のところ日本的な要素はひとつもない、ポーランド生まれのポーランド料理です。
ではなぜこのような名前になったのかと言うと、日本人の「カズノコ好き」が影響しているといいます。というのも「日本人はニシンの卵が好き」という話が、なぜか「日本人はニシンと卵が好き」という形で伝わってしまい、「ニシンと卵を一緒に料理したもの=日本風」という勘違いが起こってしまったのだそうです。
まったくもってひどい勘違いなのですが、それでもちゃんと美味しくなってくれるニシンは偉大だ、と言えるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>