おせちに欠かせない具材の「数の子」。縁起物が揃うおせちの中で、数の子が担う「縁起」とは一体どのようなものなのでしょうか。
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「数の子」の由来
おせちに欠かせない食材のひとつである数の子。その鮮やかな黄色とパリパリとした食感で、世代を問わず好かれているのではないでしょうか。
そんな数の子が「ニシン」という魚の卵であることは有名なので、ご存じの方も多いかもしれません。
しかし、そもそもなぜニシンの卵が「数の子」という呼ばれ方になったのか、由来を言える方はあまりいないかもしれません。
実はニシンはかつていくつかの地域で「カド」と呼ばれていました。その子なので「カドの子」となり、これがなまって「カズノコ」となったそうです。
しかしその一方で、ニシンがなぜカドと呼ばれたのかについてはあまりはっきりしていないようです。説のひとつとして、山形県新庄市に伝わる「門口(目の前の海)で採れるから」というものがありますが、確かな出典があるわけではないようです。(『新庄カド焼きまつり』新庄市HP)
数の子がおせちに入っている理由
そんな数の子ですが、その知名度の高さに反し、一般家庭では普段から食べる食材というわけではありません。なぜ、おせち料理に欠かせないものとされているのでしょうか。
「子孫繁栄」を願って
年のはじめに食べるおせち料理は、一つ一つの料理がおめでたい縁起物となっているのはご存知かと思います。ニシンの卵巣である数の子は、小さな粒々の卵がたくさん集まってできており、「卵が沢山→子だくさん・子孫繁栄」とかけておめでたい物と考えられるようになりました。
その結果、おせちに欠かせない食材となったのです。
この縁起の由来は古く、室町時代からあると言われています。しかしその一方で、もともとは「子だくさん」の象徴は数の子ではなかったとも言われています。
子持ち昆布も縁起物
ニシンは産卵するときに、粘着性のある卵をコンブなどの海藻に産み付けます。この卵がいっぱいついたコンブを「子持ち昆布」と呼ぶのですが、これも食用にされます。子持ち昆布も縁起物とされており、かつてはこちらが「子だくさん」の象徴だったと言われているそうです。
本当のカズノコは「干している」?
さてそんな数の子ですが、現在主に流通しているのは塩漬けされたものです。これはニシンから取り出した卵巣を塩水漬けにして作るのですが、現在原料となるニシンはほとんどがロシアやアメリカなどで獲られており、冷凍状態で日本に入ってきます。そのため、一旦凍らせた卵巣を塩漬けにする形となり、どうしても風味や食感が劣ってしまうのです。
一方で「ちょっといい数の子」の中には、漁獲してから一度も凍らせずに卵巣を塩水漬けにするものもあり、「握り子」や「生造り」と呼ばれています。こちらは一般的な数の子と比べ食味が遥かに優れているため、業界内では高く評価されているそうです。
また、冷蔵技術がなかった頃は、数の子といえば「干し数の子」でした。こちらも現在も販売はされていますが生産量は非常に少なく、一箱で数万円するような超高級品となっています。
口にする機会はあまり多くはないと思いますが、チャンスが有ればぜひ食べてみてください。風味の強さ、味の濃さに驚かされること間違いなしです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>