イカの養殖が経済性に乏しいワケ 活きエサが最大の障壁に

イカの養殖が経済性に乏しいワケ 活きエサが最大の障壁に

我々日本人が最も好きな海産物のひとつ、イカ。最近値段の高騰が著しく、養殖できればと思うこともあるのですが、イカだけになかなか簡単にはいかないようです。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

アバター画像 TSURINEWS編集部

サカナ研究所 その他

日本人はイカが大好き

時代とともに大きく変わると言われている食の嗜好。魚介類においても、かつては「猫の餌にもならない」と言われていた大トロが現在では高級食材となるなど大きな変遷がありますが。その中でも古くから現在まで変わらず愛され続けるものがあります。それはイカ。

イカの養殖が経済性に乏しいワケ 活きエサが最大の障壁に生でも加熱しても美味しいイカ(提供:PhotoAC)

実はイカ、戦後から現在に至るまで、消費量ランキングトップ3に入り続けているのです。わが国ではジャンルを問わず、様々な料理でイカを消費しており、その消費量は世界一とも言われています。

水揚げ量は右肩下がり

その一方、日本近海で穫れるイカの量は残念ながら右肩下がりとなっています。とくに代表的な食用イカであるスルメイカの水揚げは、5年で1/3に減少し、深刻な状態。

イカの養殖が経済性に乏しいワケ 活きエサが最大の障壁に近年は小型化も進んでいる(提供:PhotoAC)

そのほかケンサキイカ、ヤリイカ、コウイカなども全体的に水揚げは減少の一途をたどっています。これは乱獲のほか、世界的な気候変動や海中環境の変化なども原因と考えられており、解決はなかなか難しい状況です。

養殖はできないのか?

天然物の漁獲が減っているとなれば、養殖品の需要は高まるはずですが、残念ながら現時点ではイカの養殖は商業化されていません。もちろん需要はあるのですが、いろいろな障壁が存在しているのです。

イカ類のうち、実はコウイカ類、ダンゴイカ類は飼育自体はそこまで難しくなく、そのため水族館などでもよく見かけます。また、高級イカの代表であるアオリイカについては養殖の研究も進んでおり、採卵技術や採苗技術なども構築されています。(『アオリイカの養殖に関する基礎研究』畑中宏之 ,杉田顕浩)しかしいずれの種類のイカであっても、基本的には活餌しか食べないという特徴があり、餌の確保にコストが掛かってしまうことから、商業的な養殖が困難になっています。

イカの養殖が経済性に乏しいワケ 活きエサが最大の障壁にイカの活発さは飼育時のハードルとなる(提供:PhotoAC)

また、食用としてとくに重要なスルメイカを含むツツイカ類はそれに加えてもう一つハードルが存在します。それは「活発に泳ぐ」ということ。彼らは用心しながら飼育していても、養殖水槽の壁にぶつかって斃死してしまうことが多く、そのため大きな水槽や養殖施設が必要となり、商業化へのハードルとなっています。(『イカ学Q&A60』全国いか加工業協同組合HP)

このように、イカの養殖についてはまだまだ実現はみえない状態です。今後も美味しいイカを食べ続けていくために、養殖が行われる前にイカそのものがいなくなってしまわないよう、環境や資源量に一人ひとりが配慮していく必要があるでしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>