意外と知らない『フナムシ』の変わった生態 エラ呼吸でも水中はNG?

意外と知らない『フナムシ』の変わった生態 エラ呼吸でも水中はNG?

釣り場や海で誰もいないはずなのにふと感じる目線・・。その正体は『フナムシ』だったなんて経験がある人も多いのでは?今回は意外と知らないフナムシの生態に迫ります。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

嫌われがちな「フナムシ」

海で遊んだ経験がある人なら、ほとんどの人が見たことがあるのではないでしょうか。カサカサと堤防の上やテトラポッドの隙間を動き回るあの黒い影こそがフナムシです。

体長5cmほどで長ぼそい体をしており、長い触角が特徴的な生き物です。

遠くから見るとまるで「ゴキブリ」と見間違ってしまいますが、ゴキブリとは全くの無縁の生き物です。とはいえ、見た目は動きの素早さから嫌われることが多い生き物であることも事実です。

「フナムシ」は昆虫ではない?

フナムシは名前に”ムシ”と入ってはいますが、実は昆虫ではありません。

「節足動物門 甲殻綱 真軟甲亜綱 フクロエビ上目 等脚目 ワラジムシ亜目 フナムシ科 フナムシ属」

これがフナムシの分類であり、昆虫などの虫よりも、実はエビやカニなどに近い仲間です。もっと馴染みのある生き物だと、公園などにいるダンゴムシに非常に近い生き物なのです。

最近、水族館で人気の「オオグソクムシ」にもかなり近い生き物なのですが、人気は雲泥の差で、フナムシは英語では『wharf roach(ウォーフローチ)』直訳すると《埠頭のゴキブリ》と呼ばれ、残念ながらあまり人気者ではありません。

フナムシの名前の由来は諸説ありますが、「船に侵入してくる虫のような生き物」ということからフナムシと呼ばれるようになったと言われています。

毒はなく無害

見た目がちょっとグロテスクで、チクチクしたシルエットのため毒があると勘違いされがちですが、フナムシには毒は全くありません。

しかし、口はあるため、浜辺で寝そべっていると死体と間違えて噛み付いてくることもあります。

その場合はチクっとするだけで、傷になったり血が出るようなことはありません。ご安心ください。

フナムシはエラ呼吸?

フナムシは少し変わった器官を持っています。

陸に生息しているフナムシですが、実は肺は持っておらず、「血管鰓(けっかんさい)」と呼ばれる器官を使って呼吸を行っています。フナムシの腹部の足(腹肢)の内側が「血管鰓」となっていてここで呼吸を行っています。空気中の酸素を足の付け根の水分に溶かして鰓(エラ)呼吸を行っているのです。

このため暗く湿った場所を好み、普段は岩陰や磯などの水分が豊富な場所などに生息しているのです。

この器官はエラですので、水中でも呼吸が行えそうですが、水の中の酸素濃度はフナムシには足りず、海辺の近くに住んではいるものの、水中では暮らせません。そのため、海に落ちると少しの間は泳げはしますが、いずれは呼吸困難になり、最悪の場合、溺れて死んでしまいます。

意外と知らない『フナムシ』の変わった生態 エラ呼吸でも水中はNG?フナムシが多く住むテトラポッド(出典:PhotoAC)

「フナムシ」には海水が必須

もうお分かりかと思いますが、フナムシは都会には出現しません。

なぜなら「海水がある場所」でないと死んでしまうからです。単純に湿っていたり、水分があればいいわけではなく、「海水と同じ濃度の塩水」がなければ呼吸もできず生きていけません。

また、フナムシは乾燥にも弱く、日の当たる場所に放置されるだけで簡単に干からびてしまいます。

しかし、海岸沿いのあれば、住宅地にも出没する可能性はあります。彼らにとって「海岸の延長」と認識されれば入って来る可能性はありますが、ゴキブリのように民家を好んでわざわざ入り込むことはないでしょう。

「フナムシ」は海の掃除屋さん

フナムシは雑食で海岸の海藻や、人間の食べ残しの生ゴミ、そして魚の死骸などを食べて生きています。

そのため、フナムシは「海の掃除屋さん」と呼ばれることもあります。

しかし、だからと言ってごみを捨てていいわけではありません。海を訪れた際は自分が出したごみは必ず持ち帰るようにしてくださいね。

「フナムシ」ブームは来る?

水族館では近縁種のダイオウグソクムシが大変人気で、様々なグッズが販売され、巨大なぬいぐるみも即完売してしまうほどの人気です。

“なんとなく気持ち悪い”、”ゴキブリに似ている”こういった理由だけで敬遠されがちのフナムシですが、もしかしたら近い将来可愛いマスコットとして人気を博し、ペットになる日も来るかもしれません。

私は飼わないと思いますが。。。

意外と知らない『フナムシ』の変わった生態 エラ呼吸でも水中はNG?誰もいない海で視線を感じたら……(出典:PhotoAC)

<近藤 俊/サカナ研究所>