日本全国には様々なブランド魚がいますが、「荒波にもまれた◯◯」などの謳い文句をよく見かけます。なんとなく美味しそうだなと思わせてくれますが、どうして厳しい環境で育つと美味しくなるのでしょうか。
(アイキャッチ画像出典:Pixabay)
よく耳にする『荒波』とは
『鳴門鯛』や『大間のマグロ』などは、よく「荒波に揉まれて脂がたっぷりと乗った…」といったフレーズが使われます。
みなさんも料亭やお寿司屋さんでこんな謳い文句を一度は耳にしたことがあるはずです。
この言葉が付いてるだけで、美味しさの指標になり、ついつい注文をしてしまう人も少なくないでしょう。しかし実際にどうして美味しいのかは意外と知らないのではないでしょうか?
実はこの「荒波に揉まれて脂がたっぷりと乗った…」正しいようで、実は少し間違っています。今回は、この『荒波』に着目していきたいと思います。
では、荒波によってどういった影響が魚にあるのでしょうか。
荒波に揉まれるとどうなるのか
先ず、「荒波に揉まれて脂がたっぷりと乗った…」の前半部分。荒波とはどのような環境なのか?
一般的に荒波と呼ばれているのは、潮の流れの早い外海のことを指します。外海というのは、「陸地に囲まれず、遠く外に広がっている海。また、陸地から遠く離れた海」のことを指します。
わかりやすく言うと、瀬戸内海は、内海に属しており、太平洋は外海になります。そのため明石や鳴門といった場所は、外海にも内海にも面しており、潮の流れが他の場所に比べて早くなります。
また日本は島国なので、四方を海に囲まれており、少し船を走らせればすぐに外海に出ることができます。日本の周りには、一般的に黒潮と呼ばれる日本海流を始め、対馬海流や千島海流など様々な海流がとめどなく流れています。
この流れの早い海流の中で育つ魚は、内海の魚に比べ、流れに負けないように筋肉(身)が引き締まります。人間で言うと、毎日ジムに通ってランニングマシンでずっとトレーニングしているようなイメージです。
しかし筋肉は名の通り筋の肉、つまり脂ののった、所謂かめば脂が溢れ出す身とは潮流で引き締まった身では矛盾がでてきます。
脂がたっぷりと乗る理由
では潮の流れが早いと身が引き締まることは解説しましたが、なぜ脂が乗るのか。まず脂が乗るとはどういった状態を想像しますか?
旬の秋サンマは焼いたときに脂がポタポタと滴り、冬のブリの刺身は醤油につけると、醤油の表面に脂が浮かぶなど。
脂が乗っている = 旨味が豊富で口の中でとろける
このような状態を指します。脂ばたっぷりと乗ることで、サカナの身は柔らかくなり、とろけるような舌触りになります。
人間の脂は贅肉ですが、サカナの脂は旨味成分になります。つまりエサを豊富に食べ、旨味を蓄えた状態が脂がのっていると言えます。
ここで先程、出てきた潮流が大きく関係してきます。実は、ただ荒い波というだけではなく、潮流同士がぶつかる場所には豊富な栄養素が集まります。それ故に、鳴門や大間には、栄養素が豊富にあり、身全体が引き締まり、食べた際には天然物にしか出せない歯ごたえと、たくましく育った力強さを感じられ美味しくなります。
エサが集まる場所
日本を取り囲む海には様々な海流がとめどなく流れていることはお話しました。
北の方から流れてくる親潮や、南から流れてくる黒潮など日本の周辺には大きな潮の流れが何本もあり、この潮がぶつかる部分(潮目)に餌となる生物が集まります。
例えば、水温の低い親潮と、水温の高い黒潮がぶつかると、海水は温度差によって撹拌(かくはん)され、よく混ざります。
よく混ざることで、海底付近に溜まっていた養分は巻き上げられ、上層付近の酸素が豊富な水は海底へ。
このような現象が起こることで、水中のプランクトンは成長、増殖します。
すると、プランクトンを求めて、小魚が増え、小魚を求めて大型の魚が増えるというわけです。
このように、潮目で育った魚は豊富な餌により、丸々と太り、脂をたっぷりとのせていくのです。
大事なのはバランス
荒波に揉まれると身が引き締まり脂はドンドンなくなっていき、反対に脂がたくさん乗ると身は柔らかくなってしまういます。しかし、極稀にこの両方を兼ね備えた魚がいます。
それが日本各地に存在する大間のマグロや、明石のマダイなどブランド魚になります。
彼らの身は程よい歯ごたえと、口の中に広がる上質な脂を兼ね備えており、ほかの土地で育った魚には真似できない味をしています。
彼らが荒波に揉まれながら、豊富な餌を食べることによって魚は美味しくなるのです。
<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>