ニジマスの品種改良と見分け方について 実は種類たくさん(第6回)

ニジマスの品種改良と見分け方について 実は種類たくさん(第6回)

前回の「サケ科魚類が森林生態系を維持? 遡上(そじょう)について(5/8)」ではサケの遡上と生態系にについて説明した。今回はサケマスの品種改良について詳しく説明していこう。

アバター画像 TSURINEWS編集部

その他 お役立ち

ニジマスの品種改良

日本へのニジマスの移入は明治10年とされている。それ以降、これを母体として多くの食用品種が作られてきた。品種改良には、選別育成種、バイオテクノロジー種、人工交雑種、及びそれらを複合的に用いた品種などがある。

選別育成種は、特徴のある個体や変異個体を選別交配させ、継代育成して系統固定させた品種である。

もっとも有名なのは、ドナルドソンニジマスだ。アメリカのドナルドソン博士が大型になるニジマスを選別し、30年以上かけて継代育成したものである。

見分け方について

ニジマスの系統の品種をカナダやチリで養殖したものが「トラウトサーモン」として国内外で流通している。

国内では、青森県の海峡サーモンがドナルドソンを海洋養殖したものである。このほか、群馬県のギンヒカリ、福島県のメイプルサーモン、山梨県の甲斐サーモンなどが、系統選別育成種に該当する。

これらは、食用を目的として品種改良され、大きさや成長率、肉質、耐病性などにより選別されてかけ合わされている。容姿によって選別されていないこれらの品種をニジマスの天然種と比較して、見た目で判断することはできない。

唯一判断できるのは、福島県の林養鱒場が生産するメイプルサーモンで、ニジマスの地域型であるカムループスレインボーを改良した品種。黒点が多いなどの特徴を残している。しかし、変異の多いサケ科魚類としては、個体差程度のものでしかなく、一般人に識別することは難しい。

容姿で選ばれた品種も

少ないが、容姿により選別育成された品種もいる。突然変異により出現し、増殖された魚だ。黒点のない無斑ニジマスのホウライマス、メラニン色素が欠損した黄色いアルビノマス、脳下垂体中葉の異常により体色が青く変色したコバルトマスである。

ニジマスの品種改良と見分け方について 実は種類たくさん(第6回)ホウライマス(提供:「渓釣り 四方山話」)

コバルトマスは劣性遺伝のため大量生産が難しく、10万尾に1尾といわれる希少種で、出会えると嬉しい個体である。アルビノマスは優性遺伝のため、片方の親がアルビノであれば子はアルビノになる。

釣りのターゲットや観賞魚として各地で生産されている。ホウライマスは肉質がいいことから、食用としての需要が高く、食用品種の母体の1つとして用いられている。

バイオテクノロジー種

バイオテクノロジー種は、水温や圧力を操作することにより、受精卵の減数分裂を抑制し、全雌三倍体と呼ばれる個体を作り出す。受精卵に加圧処理または加温することで、Yが絡まないXXの個体(雌性発生二倍体)が生まれる。

このXXの個体を温度処理などにより性転換させ、XXを持つ雄を作ることができる(魚類は、自然界では多くの種が普通に性転換しており、珍しいことではない)。この雄(XX)と通常の雌(XX)を通常交配させると、全雌二倍体(XX)が発生し、この受精卵を温度処理することにより全雌三倍体(XXX)を作り出すことができるのである。

全雌三倍体について

全雌三倍体は性成熟しないため、成長が早く肉質が安定している。病気に強い一方、酸素欠乏には弱勢なため、釣りの対象としては引きが弱いとされている。染色体異常の状態ではあるが、遺伝子組換種ではないことを追記しておく。

栃木県のヤシオマスが有名だが、北海道の銀河サーモン、長野県のアルプスサーモン、新潟県の笹川マス、クイーントラウト、静岡県の富士トラウトなども同じ全雌三倍体のニジマスである。これらも、天然種との間に見た目の違いはない。染色体を調べて、初めてヤシオマスと呼べる。

ニジマスの品種改良と見分け方について 実は種類たくさん(第6回)ヤシオマス

関東においてニジマス放流量が多いのは、栃木県の東古屋湖と神奈川県の芦ノ湖。両湖とも、きれいなサーモンピンクの身をしたニジマスも釣れるが、成熟し婚姻色の出たニジマスも釣れる。後者はヤシオマスや富士トラウトではないことが分かるが、前者は通常のニジマスなのか全雌三倍体のニジマスなのかの判別はつかない。

魚体を見て、これはヤシオだ、これはドナルドソンだと知識を振りかざす人もいるが、やめたほうがいい。専門家が見た目で分からないものが、素人に分かるはずもない。純粋にニジマスと呼べばいいのではないだろうか。

「第1回:サケとマスの違いを徹底解説」から読む

<週刊つりニュース版 APC・藤崎信也/TSURINEWS編>

この記事は『週刊つりニュース版』2019年3月1日号に掲載された記事を再編集したものになります。