マダイにヒラメにスズキなど、定番の釣りターゲットの多くは、「釣ってよし、食べてよし」が人気の理由です。「釣ったらできるだけ美味しく食べたい!」というのが全釣り人の本音。そこで、今回は包むだけで美味しくなる魔法の紙『グリーンパーチ』を、熟成のプロに紹介してもらいます。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース中部版編集部・牧田)

目次
魚を美味しく保つ保存法
釣った魚は、持ち帰ってからが勝負。そう語るのは、愛知県碧南市で熟成鮨の世界を極める「料理 壽味家」店主・角谷重信氏。魚の保存は鮮度を保つだけでなく、旨味を引き出し“育てる”という考え方が、ここでは当たり前に根づいている。
魚は時間とともに変化する。釣った魚の味を最大限に引き出すために大切なのは保存環境だ。その変化を「劣化」にするか「熟成」にするかは、保存方法ひとつで大きく変わる。
冷蔵庫に入れておくだけでは、旨味を引き出すどころか、臭みが出てしまうこともある。だからこそ、「何に包んで、どう保存するか」が味の決め手になる。

話題の緑紙『グリーンパーチ』とは?
今回注目したのが、『包装紙材専門店 紙屋街』が取り扱う鮮魚専用保存紙“魚屋さんが使う紙『グリーンパーチ』”だ。
通気性・耐水性・抗菌性を備えたこの特殊紙は、魚から出る余分なドリップを適度に、そしてゆっくりと吸収し、乾燥を防ぐ構造になっている。見た目はただの緑色の紙。しかし一度使えば、その効果にきっと驚くだろう。

熟成の極意を学ぶ
角谷氏によれば、「魚の保存は、水分をコントロールできる環境がベスト。その点でグリーンパーチは非常に優れている」と語る。
たとえばラップで包んで保存するのであれば、魚の表面にドリップが溜まるため、こまめに拭き取るなど管理をしないと生臭さや劣化の原因となる。我々のように常に食材と向き合う職人であれば、そのコントロールが可能だが、一般にはおすすめできない。
反対に、キッチンペーパーなどで包む場合は吸水力が強いため、旨味を含んだドリップを急速に吸収し、その過程で旨味成分まで放出してしまう。放置するとパサパサになって味気ない身質になりがちだ。
いずれの場合も、適切なドリップコントロールが必要となるため、冷蔵庫での放置保存では難しいと言える。
グリーンパーチを使った熟成
グリーンパーチはドリップをゆっくりと吸収しながらも保湿機能を持ち、魚にとってちょうどいい保存環境を作ってくれる。そのため、寝かせても生臭くならず、熟成によって脂や旨味が凝縮され、しっとりとした身は甘く薫香をまとったような美味しい魚に仕上がる。
何より、「グリーンパーチで包んでしまえば、ラップやキッチンペーパーほどドリップ管理を必要としないので簡単だし、誰でも釣った魚を美味しく育てられるのは嬉しいんじゃないかな」と角谷氏は太鼓判を押す。
包み方にもコツがある。魚の水気をしっかり拭き取ってから、グリーンパーチでぴったりと包む。グリーンパーチは余計な隙間を作らず、ピタッと密着するように貼り付いてくれる。包み直す際も、紙自体が強いため破れにくい。
心配な場合は、ヒレや歯などの鋭い部分を取り除いておくと安全で効果的だ。必要に応じて二重にしても構わない。
少し厚手のビニール袋に入れて空気を抜いたら、しっかり縛って冷蔵庫へ。ドリップが多く出る魚の場合は、適宜紙を交換することでコンディションを保てる。
1日目はプリッとした食感と鮮度を楽しみ、3日目には旨味が凝縮。5日目あたりになると熟成香をまとい始め、刺身はもちろん、炙りや漬け、塩焼きなど噛むほどに旨味が口の中に広がり、酒が進む。晩酌の楽しみが広がること請け合いだ。
グリーンパーチの包み方【実演】
ここからは店主による実演付きで具体的な使用方法を紹介する。
魚の保存:1匹の場合
ウロコとエラ、内臓を取り除き、できるだけ手短に水道水でサッと洗い流す。
水分をしっかり拭き取り、グリーンパーチで包む。
グリーンパーチで包んだ魚を厚手のビニール袋に入れ、袋の中の空気を極力抜き、袋の口をしっかり縛る。ストローやホースを使うと便利。
冷蔵庫のチルド室などで1〜3日程度寝かせる(魚の種類や大きさによって調整。脂が乗った魚や50cmを超える場合は3〜7日程度)。ドリップ(水分)が多く出る場合は、適宜取り替えるとよい。

魚が大きい場合:2枚におろす
頭部やカマを切り離すとよりコンパクトに。

部位ごとにグリーンパーチで包む。

ぴったりと貼り付くので包みやすい。

きれいに包めた。

ビニールに入れる。

空気に直接触れないよう、袋の中の空気を抜く。ストローやホースを使うと楽。

空気が入らないようにしっかり口を縛ったら冷蔵庫へ。

短期保存で調理する場合、グリーンパーチで包む前に皮面を下にして、身全体に軽く塩を振って1〜2時間放置する。しみ出たドリップをしっかり拭き取り、食べたいサイズだけ切り出して、残りはグリーンパーチで包む。ビニールに入れ、空気に直接触れないよう空気を抜いて保存する。
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下処理でさらに美味しく!
グリーンパーチの力を最大限に活かすためには、保存前の下処理も重要だ。釣った直後の血抜き、神経抜き、氷温での締めなどの基本処理を丁寧に行い、その上で包むことで、雑味のない澄んだ旨味を引き出せる。
できる人はもちろん、ビギナーも知識を得るたび、その方法を実践してみることをおすすめする。手を加えた分、新鮮味はもちろん、魚が美味しくなることを実感できるはずだ。

釣り人におすすめする理由は?
筆者もその後、実際にグリーンパーチを使用するようになり、保存期間を適宜調整しながら楽しんでいる。驚くのはその香りと甘みだ。とくに3日目の白身魚は、釣れたての味わいとはまったく異なる次元に変貌していた。
ねっとりとした食感と、口の中に広がるコク。刺身はもちろん、塩焼きや煮付け、ムニエルにも応用が効く味わいだった。
釣り人は、魚を釣る技術だけでなく、持ち帰ってからの扱いにもこだわるべきだ。せっかく釣った一匹を最後まで美味しく、そして記憶に残る一皿に仕上げるために——グリーンパーチは、その力強い味方になってくれる。
生魚の正しい保存方法を知り、熟成の面白さを理解すれば、魚料理の世界はもっと深く、もっと楽しくなるはずだ。何より、しばらく続く魚料理にも飽きることなく、「美味しい」と言ってくれる家族の笑顔と理解につながることだろう。
一度使えば、釣魚の新たな美味しさに気づき、手放せないアイテムになるかもしれない。
『包装紙材専門店 紙屋街』 ECサイト
おすすめレシピ
お刺身はもちろん、塩焼き、煮付け、カルパッチョ、ムニエルやソテーなどにしても、その風味や旨味の変化が楽しめる。
熟成の匠が営む『料理 壽味家(すみや)』
酒、味醂、醤油、味噌など、発酵調味料メーカーが軒を連ねる碧南市に店を構える「料理 壽味家」は、熟成鮨を専門とする知る人ぞ知る名店。店主・角谷重信氏は、釣魚や三河湾の地魚、旬魚を厳選し、最適な熟成技で極限の旨味を引き出す。
古くから発酵文化が息づく三河の地で生まれる熟成鮨は、ただの鮮度を追い求めるものではない。魚の生命力と旬の鮮度を活かし、時間をかけて旨味を熟成・濃縮させ、芳醇な熟成香と奥行きある味わいを生み出す。個性豊かな熟成魚に、香り高くコクのある赤酢仕立ての赤シャリを合わせるのが壽味家のこだわりだ。
発酵文化に魅せられた食通たちが、ただ鮮度を競うのではない“至高の旨味”を求めて碧南に足を運ぶ。
今回、グリーンパーチを使った魚の保存・熟成法を伝えるにあたり、角谷氏の知見がその可能性を力強く証明してくれた。釣った魚を「さらに旨くする」。その答えが、熟成魚として育てる初めの作法とも言えるのかもしれない。

<牧田亘/週刊つりニュース中部版編集部>