橋の上から河川を見ると、流れの速い場所や緩やかな場所があることに気づくと思います。実はこの「流れの速い場所」「緩やかな場所」にはそれぞれ名前があります。しかもそれらが生き物にとって非常に重要な場所なのです。今回はそうした河川の名称とその重要性などをご紹介します。
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流れの早い「瀬(せ)」
河川における浅くて流れの速い場所を瀬(せ)といいます。瀬には平瀬と早瀬があります。
波立ちのあまり見られないところが平瀬、流れが早く白波がたっているところが早瀬です。
瀬は水深が浅いため、日光が川底まで届き石に付着する藻類がたくさん育ち、これを食べる水生昆虫が集まります。さらにそれらの水生昆虫を狙って魚たちも集まります。
流れの緩やかな「淵(ふち)」
河川において深くて流れの緩やかな場所を淵(ふち)といいます。
こうした深場は魚たちが鳥などに襲われた際の逃げ場になり、またコイやナマズ等の大型の魚の棲みかにもなっています。
「瀬」と「淵」の研究、そこからわかる重要性
国立研究開発法人土木研究所・自然共生研究センターは、1998年11月に通水した3本の実験河川を対象に、瀬と淵の魚類の調査を行いました(「瀬と淵」そして「水辺の植物」-自然共生センター-)。
その内の1本はほぼ直線的で環境も単調、他の2本には瀬や淵などの多様な環境が設定されています。調査により、遡上して住みついた魚の個体数は、後者の方が数倍多いと推定されたそうです。
また、翌年の8月と10月に調査したときの生息個体数は、瀬や淵のある後者の方で約10倍に達していることが判明しました。
このように、直線的で単調な河川よりも、瀬や淵から成る多様な環境を持つ河川の方が様々な生き物が住める環境であることがわかります。
護岸工事の影響
しかし皆さんもよく目にするように、こうした河川は護岸工事により直線化し、瀬や淵が消滅していっています。これにより当然生き物の多様性は失われ、また水質の浄化作用のあった植物も生育しなくなり、河川が汚染されていきました。
とはいえ、ヒトの安全な暮らしを考えるうえで護岸工事は大切です。近年では、河川環境に配慮したうえでの護岸工事、また瀬や淵を人工的に作る護岸工事も行われています。
このように、河川の何気ない流れや深みにはこうした重要性があったのです。ヒトと河川環境・生き物たちが共存していくために何ができるのかを考えたいですね。
<みのり/サカナトライター>