商業捕鯨が再開された日本の捕鯨。新規の対象種も追加され注目を集めていますが、前途洋々とはいかない事情があります。
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捕鯨対象に「ナガスクジラ」が追加
古くから、クジラを重要な資源として活用してきた日本。クジラを保護しようとする世界の潮流に合わせて長らく捕鯨を制限してきましたが、鯨食文化の保全などを理由に、2019年に商業的な捕鯨を再開しました。
それから5年が経過した今年、我が国の捕鯨にひとつ歴史的な変化が訪れようとしています。それは捕鯨対象種の追加。
これまではミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラの3種が対象となっていましたが、まもなくナガスクジラが追加される見通しです。ナガスクジラは全長20mほどになる大型のクジラで、シロナガスクジラについで2番目に大きな種となっています。
水産庁の姿勢には批判も
今回、ナガスクジラの追加については捕鯨・鯨肉関連業界の強い要望を受けて水産庁が決定した形となっています。しかしこの決定については、国内外から強い懸念が寄せられています。
ナガスクジラの資源量については、現時点で決まっている捕獲枠通りに獲ると、無視できない減少率に陥る可能性が指摘されています。そのため、4年以内に再度資源状況を調査し、その結果によっては捕獲枠を再検討する必要があるという意見があります。
そもそもナガスクジラの追加が決定されるまで、開かれた意見交換の場が設けられず、ブラックボックスの中で捕獲枠が決められてしまった形です。これは国際捕鯨委員会の脱退時や、その後の商業捕鯨再開についても同様の指摘があります。
水産庁は過去に太平洋クロマグロの漁獲枠決定についても各方面から意見が相次いだことがあります。
対象種追加の前に「足場の再構築」を
筆者は鯨肉がかなり好きで、見かけると購入することが多いです。しかしそれでも、今回のナガスクジラの追加には疑問を持っています。というのも、現在すでに獲られている3種で、鯨肉の需要は十分に満たされていると考えるからです。
現在、我が国の鯨肉消費量はピーク時の100分の1ほどに低迷しています。これは商業捕鯨の中止期間に鯨肉の価格が高騰し庶民的な食材でなくなってしまったことが影響していますが、商業捕鯨が再開されたあとも消費量は戻っていません。
そのため、現在捕獲されている3種でその需要は十二分に満たせており、むしろ鯨肉は市場でダブついている状態です。ナガスクジラを追加する理由は見いだせません。ナガスクジラは味が良いという話もありますが、ミンクやニタリも十分に美味であり、それは根本的な議題とはならないと考えます。
水産庁がまず行うべきことは捕鯨対象種の追加などではなく、失われつつある鯨食文化に脚光を当て、復権させ、食材として一般的なものに戻すことなのではないでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>