水揚げが最盛期を迎えている「養殖ワカメ」ですが、いま各地で様々な「泥棒魚」による食害が起こっているのをご存知でしょうか。
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三陸の海で猛威を振るう「ワカメ泥棒」
養殖ワカメの生産が盛んな宮城県南三陸町。ここでいま、とある「意外な魚」によって、ワカメが食べられてしまう被害が問題となっています。
南三陸町の養殖筏に設置した水中カメラによって撮影された映像には、ワカメの新芽を食べ散らかすメジナたちの様子が映っていました。水中にぶら下がるワカメの先端部分を、20cmに満たないサイズのメジナたちがどんどん噛みちぎっていきます。
昨年11月頃、被害にあった漁業者たちからワカメが食害される報告があり、調査が行われた結果、その犯人がメジナであることが判明したそうです。
メジナがなぜ問題に?
メジナは食材としてはあまりメジャーではありませんが、釣りの世界では押しも押されぬ大スター。大きくなると50cmを超える魚で、今回宮城の海で観察された個体はまだ子どもですが、関係者は危険視しています。
もともとメジナは温暖な海域を好む魚で、太平洋側の生息適地は房総半島より西側でした。そのため夏の間黒潮に乗って北上しても、冬の低水温で死滅し、宮城県には定着できなかったのです。
しかしここ数年、黒潮の勢いが強まる中で生息適地が北上し、宮城県でも普通に魚影が見られるようになってきました。これは冬に海水温があまり下がらなくなったことが理由と見られ、このまま海水温の上昇が続けば宮城県は完全にメジナの生息域となり、大きく成長していくためにワカメの食害の被害額も大きくなる可能性があるのです。
各地の「ワカメ泥棒」たち
さて、宮城ではメジナがワカメ食害犯として注目されていますが、全国的にはより様々な種類の魚が食害犯として認知されています。
西日本においてもっともワカメの養殖が盛んな海域のひとつ瀬戸内海では、近年「アイゴ」による食害が広がっています。アイゴももともと温暖な海域を好み、瀬戸内海ではあまり大きく成長することがないと言われていたのですが、海水温の上昇により外海との接続点である鳴門海峡などで数が増えています。もともと海藻を好んで食べる習性があるため、養殖ワカメは被害に合いやすいのです。
また同じく瀬戸内海周辺では、クロダイによる食害も問題視されています。この魚は雑食性で非常に沢山の海産物を食べ、養殖業界ではワカメ、ノリ、カキ、アサリなどで小さくない被害を出しています。
ほかにも意外なところではボラ、カワハギ、ウマズラハギ等による被害も観察されています。これらの魚もいずれも温暖な海域を好むため、今後も被害が増えこそすれ、減ることは考えにくいです。我々の食卓に欠かせないワカメですが、人の口に入る前に魚たちに横取りされている現状を知っておく必要があるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>