「ご当地サーモン」のブーム到来 開発が進む背景に輸入品の高騰も

「ご当地サーモン」のブーム到来 開発が進む背景に輸入品の高騰も

各地で盛り上がりを見せる「サーモンの養殖」。各産地が特色ある品種の開発・養殖を行っています。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

アバター画像 TSURINEWS編集部

その他 サカナ研究所

徳島の「サーモン」はアマゴ

いま、徳島県でとある「サーモン」の養殖にスポットライトがあたっています。そのサーモンとは「アマゴ」。西日本における渓流釣りの主役で高い人気を誇りますが、なぜこの魚が「サーモン」として注目を集めているのでしょうか。

「ご当地サーモン」のブーム到来 開発が進む背景に輸入品の高騰もアマゴ(提供:PhotoAC)

サーモンとは日本語で「サケ」と呼ばれる魚のことであり、標準和名サツキマスであるアマゴは正しくはトラウトと呼ぶべきものです。しかし我が国におけるサケとマスの違いはかなり曖昧なものである上、トラウトという言葉は釣り人以外には馴染みがなく、流通上はマスの仲間も(特に生食可能なものを)サーモンと呼ぶことが多くなっています。

もともと、徳島県内では半世紀にもわたりこのアマゴの採卵や養殖の研究が続けられてきたのですが、今年始まったのはこのアマゴの養殖を海水で行う取り組みであり、それを踏まえればサーモンと呼ぶべきものであるというのが理解できます。海水で養殖することにより寄生虫のリスクを減らし、生食用として流通させることが可能になるためです。約3カ月間育て、5月ごろに市場へ初出荷する予定といいます。

「ご当地サーモン」ブーム到来?

この徳島の例に限らず、現在、全国各地で「サーモン」と呼ばれる魚の養殖が盛んに行われています。その理由としてサーモンの需要の高さ、ならびに輸入品の高騰が挙げられます。

サーモンは、回転寿司の好きなネタランキングで11年連続1位を記録するなど、生食用の魚の中でも最も重要な存在となりました。もちろん塩焼きなどの惣菜用としても欠かせない存在で、近年のサケ漁獲量の減少によりその重要性はますます高まっています。

「ご当地サーモン」のブーム到来 開発が進む背景に輸入品の高騰もサーモン切り身(提供:PhotoAC)

サーモンはこれまでチリやノルウェーなど外国から輸入することが多く、国産はあまり注目されてきませんでした。しかしこのところの円安の進行や燃油価格の上昇のために輸入サーモン価格の高騰が起こり、国産ものの価格競争力が上がる形に。その結果、各地でサーモンの養殖が盛んとなり、やがて「ご当地サーモン」と呼ぶべき特色ある魚たちが養殖されるようになったのです。

各地の変わり種「ご当地サーモン」

このようなご当地サーモンは、今や数多く存在しています。中でも比較的知名度が高いのが、ニジマスの三倍体(遺伝子操作により性成熟することのないようにデザインされた個体)である栃木県の「ヤシオマス」。内陸県である栃木で生産される貴重な生食用魚種です。

隣の群馬県にあるギンヒカリもやはりニジマスですが、こちらは三倍体ではなく通常の個体です。ただし、通常2年で成長するニジマスの中で時々見られる「成長に3年かかる個体」を選抜し、交配させることでその形質を固定したものです。そのため一般的なニジマスより大きく成長します。

このように「ご当地サーモン」にはニジマスが多くなっているのですが、その次に多いのがギンザケです。ギンザケは本来、サケ科魚の中でも特に北方系の魚なのですが、水温が低い時期のうちに出荷できるサイズにまで成長させることが可能なため、東京湾など比較的南の地域でも養殖されています。

富山県では「べっ嬪ぴんさくらますうらら」というブランド名でサクラマスが養殖されます。サクラマスはヤマメの降海型で、各地で「本マス」と呼ばれており、マス類で一番味が良いとされます。

「ご当地サーモン」のブーム到来 開発が進む背景に輸入品の高騰も生食用として人気の「富士の介」(提供:PhotoAC)

このほか、ご当地サーモンで無視できないのが「ハイブリッド品種」。ニジマスとキングサーモンをかけ合わせて作った静岡の「富士の介」、ニジマスとアマゴの雑種三倍体である愛知の「絹姫サーモン」。ニジマスとブラウントラウトの雑種三倍体である長野の「信州サーモン」など、ハイブリッドサーモンは少なくありません。

現在も各地の水産試験場で様々なブランドサーモンが開発されており、魚種はより増えていくと思われます。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>