「魚を味噌につけたもの」はとても一般的ですが、「魚そのものでつくった味噌」をご存知でしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
魚で作った味噌「ととのみそ」
新しい発酵調味料である「ととのみそ」を使った料理の試食会が先日、大分県の南部にある津久見市で開催されました。
「ととのみそ」は、別府大学と津久見市観光協会などで作るプロジェクトチームが、昨年の8月から開発を行ってきた発酵調味料です。味噌と名前がついていますが、大豆は使用しておらず、魚などの水産物と米こうじで作られているのが特徴となっています。
今回試食会で提供されるものはマダイとイカが原料となっているそうです。
なぜ魚で味噌が作れるの?
我々の日々の食卓に欠かせない味噌。その食欲の湧く旨味や香りは、タンパク質がアミノ酸や香味成分へと分解されることによってもたらされるものです。
大豆を主原料とする一般的な味噌は、大豆に豊富に含まれているタンパク質を、コウジカビの持つタンパク質分解酵素で分解・発酵することで作られます。一方「ととのみそ」は大豆の代わりに魚介類に含まれるタンパク質を分解することで作られるのです。
魚介類は大豆と比べタンパク質含有量が多いこともあり、「ととのみそ」は一般的な大豆の味噌に比較してアミノ酸、有機酸、香り、呈味成分が多くなっていることが調査によってわかっているといいます。
実は各地に存在
生の魚介類は保存性が低く、冷蔵技術が発達していなかった古い時代は、塩漬けにするくらいしか保存方法がありませんでした。そうして塩漬けにされた魚介類は、自らの内臓に含まれるタンパク質分解酵素によって魚介類自身が分解されていき、やがて旨味豊かなペースト状の食材となりました。
この様なものの液体部分を分離してつくる「魚醤」には、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムなど世界中に有名な調味料が存在していますが、固体部分や混ざったペースト状の部分も、我が国ではややマイナーながら調味料として活用されてきた歴史を持っています。
そのような「発酵魚介の味噌状ペースト」には、インドネシアのトラシ、マレーシアのブラチャン等があります。これらは発酵にあたりコウジカビを使用していないため味噌と呼ぶと語弊もあるのですが、「タンパク質を分解して作られた調味料」という点では魚の味噌みたいなものだといえるでしょう。
また我が国でも、秋田の男鹿地方や長崎の平戸地方には、ととのみそ同様魚とコウジカビを主体に仕込んだ味噌様の調味料が今も存在しています。重要な食材であるにも関わらず国内自給率のなかなか上がらない大豆に変わり、今後全国各地で「魚を使って作る味噌的なもの」が作られるようになっていくかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>