人によって評価が分かれる魚はたくさんいますが、ニザダイはその代表的なもののひとつ。「美味しい」という人から「こんなまずい魚もいない」という人まで両極端な魚ですが、その理由のひとつに「旬に対する理解の差」があるのではないかという気がします。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
魚にも「外科医」がいる?
南西日本の沿岸の岩場に生息する魚であるニザダイ。一般的な知名度は低いですが、釣り人の間では良くも悪くも高い知名度を誇る魚です。
尾びれの基部によく目立つ3つ(実際は4つあるが最後のひとつは小さく目立たない)の黒い突起があることから「三の字」「三公」と呼ばれ、標準和名よりもこちらの呼び名のほうが通りが良いほど。この突起は鱗が変化したものといわれ、非常に固く鋭く尖っています。
捕獲され暴れているニザダイを不用意に掴むと、この突起が指にあたってひどい怪我をしてしまうことがあり、恐れられています。その切れ味の良さからニザダイは英語では「Surgeon fish(外科医の魚)」と呼ばれています。
嫌われ者のニザダイ
ニザダイは身近な魚ですが、我が国においては残念ながらあまり好まれていません。理由の1つには上記の危険な突起があります。また、釣りの外道としてしばしば顔を出し、引きが強いために「大物か!?」とぬか喜びさせることも嫌われやすい原因になっています。
しかしそれ以上に大きな理由がその「匂い」。ニザダイはしばしば海藻が腐ったような強烈な磯臭さを放ち、猫すら見向きもしない魚の通称「ねこまたぎ」の代表格と言われています。
この匂いは、彼らが食べた海藻が腸内で発酵したときに出る匂いともいわれており、新鮮なうちから強烈です。そのため釣れても持ち帰られることはあまりなく、また漁獲されても捨てられてしまうことが多いのです。
旬はいつ?
しかしそんなニザダイですが、実は好んで食べる人・地域もあります。最も毀誉褒貶の激しい魚の一つといえ、まずくて食べられないという人もいれば非常に美味しい魚として珍重する人もいるのです。これはなぜでしょうか。
筆者は過去に何度かニザダイを食したことがあるのですが、そのたびに味わいや風味に差があると感じてきました。個人的な感覚ではあるのですが、一般的にニザダイの旬と言われる冬より、真夏のほうが食べやすい個体が多いように思います。
彼らの旬が冬とされる理由は脂乗りが良くなること。確かに真冬の固体はまるでラードのような真っ白な脂がベッタリとついていて美味しそうに見えるのですが、実はその脂こそが強烈に磯臭いのです。
夏のニザダイは脂ののりこそ悪いものの、臭さが少なくさっぱりとしています。ぷりぷりとした身質の良さもあり、新鮮なものを薄造りや洗いにするととても楽しめます。
ニザダイは匂いさえなければ非常に美味しい魚なので、旬はやはり「夏」ではないかと思うのですが、魚食いの皆様いかがでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>