ときおり沿岸近くに現れて人々を恐れさせる危険なシュモクザメ。しかし彼らの形態や生態には非常にユニークなところが多く、興味を引く存在でもあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
海水浴場にシュモクザメ現る
福岡県糸島市の海岸から200mほどの沖合で先月末、シュモクザメとみられるサメが確認され、海水浴場から近いことから大きなニュースとなりました。
最初に通報したのは、沖合で船に乗り魚釣りをしていた男性。「サメがいる」との市からの通報を受けた警察のヘリコプターが、シュモクザメとみられるサメを確認しました。
サメは10匹から15匹ほどの群れで泳いでいて、体長はいずれも1~1.5mほどといいます。警察や糸島市は、海水浴場にいる遊泳客たちを避難させるなどして、注意を呼びかけました。(『糸島市沖に“シュモクザメ”海水浴などに注意喚起』九州朝日放送 2021.7.28)
ユニークな形のシュモクザメ
シュモクザメは獰猛な性質をしており、人を襲うこともある、いわゆる「人喰ザメ」と呼ばれるもののひとつ。危険なサメとして恐れられていますが、一方でそのユニークな形状でも広く知られています。
彼らの最大の特徴はその頭部。左右に大きく張り出しており、その先端に目と鼻孔があります。そのシルエットから鐘を撞くT字型の道具「撞木(シュモク)」に例えられ、英語でもハンマーヘッドシャークと呼ばれます。
左右の目が大きく離れていることから、立体視がしやすく、距離感を図るのが得意なサメなのではないかと考えられています。その一方で構造上、頭部のすぐ前方が死角になってしまうので、死角をなくすために左右に頭を振りながら泳ぐ習性があります。
その生態もユニーク
彼らがユニークなのはその見た目だけではありません。
単体で暮らすことの多いサメの中では特異的に、シュモクザメは大きな群れを作ります。今回福岡で見つかった群れは10匹程度のものですが、大きな群れでは100匹を超えることもあるといいます。浅瀬に共同の保育場所をつくり、群れで幼体を育てることも知られています。
その他、未消化物を消化管から出したり、寄生虫を洗い流すための「腸洗い」という行為を行うことも。
人間との関わりでは、延縄漁の魚を食害する漁業被害が大きい種だとされています。一方でフカヒレを目的とした乱獲により数を減らしているとも言われ、ワシントン条約で保護されています。
危険なサメではありますが、いなくなっては欲しくない存在であるシュモクザメ。必要以上に怖がらず、温かい目で見ていきたいですね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>