冬はカニの美味しい季節。各地で「ベニズワイガニ」の水揚げが盛んになります。「ズワイガニの偽物」なんてひどい呼ばれ方をされることもありますが、近年は「美味しいカニ」として徐々に注目度が上がってきています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ベニズワイガニの水揚げ盛況
札幌の南に位置し、噴火湾に面した北海道苫小牧市。ここにある苫小牧港・西港漁港区で、今が旬のベニズワイガニの水揚げが本格化しています。
漁獲量は1日に100~200kgほどで、卸売価格は1kg当たり1000円程度で取引されています。同じく噴火湾で盛んに漁獲されるケガニと比べると数分の1の価格です。
噴火湾のベニズワイガニは資源量が減少していることもあり、今年度は試験操業を行っていないそうです。ただそれでも、深海魚であるメヌケ(大型のカサゴ類)などの刺し網漁でまとまって混獲されるため、きれいに箱詰めされて出荷されています。刺し網漁の終わる3月末頃まで出荷が続く見通しです。(『真っ赤な姿ずらり 苫小牧漁協 ベニズワイガニ水揚げピーク』苫小牧民報 2021.2.27)
「じゃないほう」のズワイガニ?
ベニズワイガニは名前からも分かる通り「3大食用ガニ」のひとつとして知られるズワイガニの仲間です。生きているうちからまるで茹で蟹のような鮮やかな朱色をしているのが特徴ですが、シルエットや名前が似ていることもあり、しばしばズワイガニと一緒くたにされています。
ベニズワイガニはズワイガニよりも深い場所に棲息しており、専門に獲られるようになったのは戦後からと言われています。漁獲の手間はより大きくなるはずですが、しかし「松葉ガニ」「越前ガニ」などのブランドとして圧倒的な存在感を示すズワイガニと比べると、ベニズワイガニはとても安いです。
東京都心の鮮魚店でも、成体が1杯あたり1000円程度で購入できることもしばしば。その安さゆえにかつては「ズワイガニの代用」として扱われ、21世紀になってからもしばしば偽装品に使われ、事件になってしまったこともあります。練り物や加工食品に用いられると、仮に「ズワイガニ」として売られていても、見分けるのは困難です。
近年はブランド化も
しかしそれは裏を返せば「ズワイガニ同様に美味である」ということ。本家ズワイガニと比べるとベニズワイガニにはやや水っぽさこそあるものの、それを補うほどの強いカニの風味があって、とても美味です。特にミソ(中腸線)の旨さは本家にも全く引けを取りません。
近年、商品偽装への視線が厳しくなるにつれ、「ベニズワイガニ」の名を冠した加工食品が増え、その知名度は上がっています。スーパーマーケットでも、ベニズワイガニの甲羅に詰めた「カニグラタン」などの加工品は当たり前に見かけるようになりました。
またそれにとどまらず、最近では特定の地域で、良い状態で漁獲されたベニズワイガニをブランド化する例も増えてきています。北陸新幹線の広告に用いられ有名になった富山の「高志の紅ガニ(こしのあかがに)」を始め、秋田の「北綱がに」、兵庫の「香住がに」などが人気となっています。
ズワイガニの減少と高騰が著しい中、安価に腹いっぱい食べられるベニズワイガニの需要は高まる一方です。ただそれでも、近年は資源の減少が指摘されており、ズワイガニ同様、漁獲量のコントロールが大事になってくるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>