我々の健康に必須の栄養素として知られるDHA。「青魚に含まれている」というイメージが強いですが、実際はそんなに限られたものというわけでもありません。
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サケの稚魚養殖にDHA活用
我々の食卓に欠かせない魚・サケ(シロザケ)。このサケが基幹漁業対象魚種のひとつである北海道でこのたび、その稚魚に「DHA」を含んだ餌を与えるという実験が行われることが決定し、ニュースとなっています。
道では、2021年度当初の予算案に、この実験に関連する計約5300万円を計上するといいます。同年度放流予定のサケ稚魚数千万匹に、DHA入りの餌が与えられ、放流される予定です。(『放流サケ稚魚にDHA 北海道、来遊数の増加めざす』日本経済新聞 2021.2.17)
なぜサケにDHAを?
我々ヒトにも欠かせない栄養素として知られるDHA。青魚に多く含まれていることが知られていますが、なぜそれをサケに与えるのでしょうか。
北海道の漁業を支えるサケですが、近年は回遊数の減少が指摘されています。地域によっては壊滅的不漁に見舞われてしまったところもあり、対策が必要となっています。そのため、様々な機関や団体がその要因などについて様々な角度から調査・研究を行っています。
その団体のひとつである、道の担当者や有識者で構成される「秋サケ資源対策協議会」は、サケの漁獲量の減少の理由として「急激な海水温の変動で適切な放流時期の判断が難しくなっていることや、海洋環境の変化で稚魚が十分な餌を食べられていないこと」などが考えられるとまとめました。
そしてその状況を改善するため、稚魚にDHAを含む餌を与えたところ、飢えへの耐性が増す効果が確認されたということです。またそれに加え「泳ぐ力が強くなる」可能性もあることがわかり、稚魚の生存率を上げる効果が期待できるとして、餌に添加する実験を行うことになったのです。
DHAって一体何もの?
このように、我々ヒトだけではなく、魚の能力をも向上させる効果が期待されているDHAですが、その知名度と比べ、物質の正体についてはあまりよく知られていないように思います。
DHAは「ドコサヘキサエン酸」の略で、我々の三大栄養素のひとつである「脂質」を構成する要素である「脂肪酸」の一種です。常温だと僅かに黄色っぽい油で、EPA(エイコサペンタエン酸)とともに魚介に含まれる脂肪酸、そして我々ヒトが外部から摂取しないといけない「必須脂肪酸」のひとつとして知られています。
このDHA、青魚などに豊富に含まれる成分とよく言われますが、実はそれに限らずサケをはじめとする多くの魚介類に豊富に含まれています。不飽和脂肪酸であるDHAは融点が低く、低水温の中でも凝固しないため、魚介類のエネルギー源としてはとても優秀な脂質です。
実は魚介類もこのDHAの大部分を自力で作り出しているわけではなく、餌から摂取することで自身に溜め込みます。サケの稚魚にDHAを与えるということはつまり「エネルギー源を添加している」というシンプルな話なのです。
なおこのDHAですが、実は我々ヒトも体内で生合成することが可能。αリノレン酸という、植物油に含まれる不飽和脂肪酸から合成されます。ただ、その効率は低く、魚などを食べて外部から摂取したほうが早いとされています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>