秋鮭の卵巣で作る「イクラ」は秋の味覚の代表。ここ数年は不漁もあり、価格がやや高止まりしていましたが、今年はどうなのでしょうか。
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秋が旬のイクラ
9月に入るとスタートする秋鮭の定置網漁。その開始の知らせとともに流通し始めるのが、生の筋子です。筋子はサケ類の卵巣のことであり、これをほぐして醤油ダレに漬け込むことで美味しいイクラになります。
漁期のはじめのうちは筋子も未熟なものが多く、柔らかい質感です。季節が進むほどに粒が大きくなり、また価格が落ち着いて購入しやすくなっていきます。
卵巣が成長するにつれ粒が固くなる傾向があり、このようなものを好まない人もいますが、大粒のものを噛んだときのバツンと弾ける質感も捨てがたいものです。好みで使い分けるのが良いでしょう。
醤油漬けのほか、塩と酒だけで作る「塩筋子」も非常に美味です。卵巣の皮ごと漬け込むため、鮮度が落ちた卵巣では作ることができないのが難しいところですが……
今年の秋鮭漁獲量は?
さて、そんな筋子の親である秋鮭ですが、漁獲量はどのように推移しているのでしょうか。
北海道・日高は不漁
主要産地であり最も高品質なサケが採れるとされる北海道・日高では、今年も昨年に続く不漁に苦しめられています。
昨年の秋鮭漁は全国的に不調でしたが、日高地区の不漁は深刻で、水揚げ高は平成以降で最低でした。しかし今年はそれすらも下回る見込みだといいます。(『気になるイクラの価格 サケの不漁 今年は地域差も』HTBニュース 2020.10.6)
日本海側・オホーツク海側は回復
その一方、日本海側やオホーツク海側の産地では、今年の水揚げ高は昨年から大きく回復しているといいます。日本海側にある増毛漁協によると、9月29日までの秋サケの漁獲量はおよそ110tとなっており、これは去年の同じ時期に比べると2倍ほどの数値だそうです。(『北海道の日本海側 秋サケ定置網漁が最盛期迎える』NHK 2020.10.1)
なぜこのように、地域によって差がでているのでしょうか。
太平洋側の不漁原因
日高地区では今年、本来サケがたくさん入るはずの網に、イナダがたくさん入っているといいます。
ブリの子であるイナダは、温かい海域を好む魚。本来はより南の海域に生息しており、この時期に北海道周辺の海にいるのは異常事態です。これはつまり、それだけ「北海道周辺の海水温が高い」ということが言えます。
今年は現時点で台風が少なく、強風によって海水がかき混ぜられることがなかったため、例年この時期に起こるはずの海水温の低下がまだ起こっていないのだと考えられています。そのため、冷水を好む魚であるサケが南下せず、これが不漁につながっているのではないかと考えられています。
漁協では早期の水揚げ回復を願っていますが、漁期中にこの状況が改善されるかは未知数です。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>