居酒屋との相性はサカナ界最強の「ホッケ」。幼魚から成魚になるにつれて生態が変化し、またそれに伴って味も大きく変わるユニークな一面があります。
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ホッケとはどんな魚か
ホッケという魚を知らない人は、とくに大人ではほとんどいないと思います。ホッケの干物は日本の代表的な惣菜とも言えるもので、居酒屋の定番メニューとして長らく愛され続けてきました。旬の長い魚ですが、豊富に餌を食べて大きく太る初夏が最も美味しいと言われています。
このホッケ、漢字で書くと「」となるのですが、かつては「北魚」と書かれる事が多かったそうです。その名の通り冷水域の魚で、国産の殆どが北海道で水揚げされています。アイナメ科に属し、近縁のアイナメ同様、北日本では釣りの対象としても馴染み深い魚です。
かつては大衆魚の代表のようなホッケでしたが、近年は漁獲高が大きく減少し価格が高騰しています。安価で販売されるものは輸入品の「縞ほっけ」、近縁種のキタノホッケであることが多いようです。
成長により名前も性質も変わる
そんなホッケですが、産地では成長に従い名称の変わる「出世魚」です。幼魚のうちは体色が青みがかっておりアオボッケ、やや大きくなったものは体型からロウソクボッケ、成熟し産卵のために接岸したものをハルボッケと呼びます。
成長に従って色味やシルエットが大きく変わるのがこの魚の特徴。幼魚の「ロウソクボッケ」の頃はほっそりとして尾びれの切れ込みも大きく、まるでサバのような体型をしています。このためか、英語では「Okhotsk atka mackerel」(オホーツク・アトカ島のサバ)と呼ばれています。(『ホッケ』ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑)
成長すると顔が小さいまま背中が盛り上がって体高が高くなり、いかにもアイナメ科らしいシルエットに変化します。この状態になって初めて「ホッケだ」と気づく人もいるかもしれません。
回遊魚から根魚に変わる?
幼魚はそのシルエットからも分かる通り遊泳力が高く、群れでやや深い海の中層を泳ぎ回る「回遊魚」的な性質を示します。しかし成長に伴い徐々に回遊性を失い、浅瀬に寄るようになります。
そして成魚になると、一部の個体は回遊性を完全に失い、アイナメ同様に岩礁帯に居着くようになります。「根ボッケ」と呼ばれるこのような個体は餌を飽食してよく太っており、脂ののりがよいため特に珍重され、高値で取引されます。まるで回遊魚から根魚に変わるようなこの習性は、ホッケという魚のユニークな点のひとつです。
ホッケは身に水分が多く、白身魚ではあるもののまるでニシンやイワシのような身質をしています。鮮度落ちが非常に早く、そのため加工用に回され、鮮魚で流通することはあまりありませんでした。
しかしこの根ボッケはその味の良さが評価され、刺身用として首都圏にも流通するようになっています。函館では、漁獲後すぐに氷締めにして、死後硬直が保たれ硬いままのものを「根ボッケバキバキ」というブランド名で流通させており、その名前のインパクトとともに広く知られています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>