変わりものの多い有明海海産物の中でもとりわけ珍奇な形状をしたウミタケ。実はその漁に危機が迫っていたのですが、資源保護の取り組みが功を奏し始めています。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
有明海の大陸系遺存種
九州の特徴的なシルエットを形作る上で重要な海である有明海。その深く入り込んだ形状と、数多の火山に囲まれている環境は、ほかの海にはいないここだけの生き物をたくさん育んでいます。
そんな有明海の変わった生き物たちの多くは「大陸系遺存種」と呼ばれるもの。ユーラシア大陸東部の湾と日本の海が浅い海域で接続されていた頃に共通に分布していたものが、その後深い海で分断されてからも、この有明海という海域で独自の生態系を維持し続けているのです。
珍奇な形状をした「ウミタケ」
そして、大陸系遺存種の一つにウミタケという貝がいます。
この貝は有明海のみならず、あらゆる日本産魚介類のなかで最も珍奇な形状をしていると行っても過言ではありません。その巨大すぎる水管は殻に収まる気をまったく見せず、二枚貝にとってほぼ唯一の移動手段である足は短くほぼ退化しています。そもそも2枚の殻の間にある蝶番は独立した殻になっており、厳密に言えばこれは「三枚貝」なのでは……? という思いが拭えません。
その見た目から、日本では「海のキノコ」に例えたようですが、同様にこの貝が棲息している韓国では「象の鼻」や「犬の陰茎」などといった、見た目から素直に連想される名前がつけられています。
かつては大量に生息
このウミタケ、かつての有明海ではごく一般的な食用貝でした。「T字型の棒を海底に押し付け、ぐるりと一回転させると水管が引っかかって揚がってくる」というなんとも脱力系の漁法(うみたけねじりと呼ばれる)で漁獲できるほど、海底には大量のウミタケがいたそうです。
しかし、多くの海産物が壊滅的な不漁に襲われている有明海。このウミタケもその例に漏れず、10数年前から突然採れなくなってしまいました。有明海では諫早湾の干拓をはじめ、様々な形での環境破壊が続いているのですが、この不漁の原因ははっきりしておらず、やむなく2007年から休漁措置が取られることとなりました。
有明海沿岸では「海茸粕漬け」が特産品で、お土産品としても人気なのですが、この原料も、輸入もののウミタケに頼らざるを得ない状態が続いています。
復活の兆しも
危機に陥ったウミタケ漁ですが、近年明るい兆候も出てきています。休漁期間も漁協組合を中心に海底資源の調査が続けられ、対策が講じられてきたのですが、それらが成果を上げてきているといいます。
休漁が始まって10年経った2017年には、かつて中心漁業域であった佐賀市沖で棲息区域の拡大と棲息量の増加が確認され、ついに試験操業が始められました。その翌年2018年からは、市場にも流通するようになっています。
久しぶりの入荷となった2018年には、物珍しさもあって1個あたり2000円以上という高値がつくこともありました。(『ウミタケ、3年連続試験操業へ 有明海、資源増加を確認』佐賀新聞LIVE 2019.6.19)今後流通量が増えれば、より安価になり、かつての身近な惣菜貝であったウミタケが戻ってくるかもしれません。