釣り人なら釣った魚を思い出として残したい。写真は手軽でいいが、昔ならではの魚拓作りを、この夏休みに挑戦してみるのもいいのではないだろうか。今回は墨一色の記録魚拓(間接魚拓)ではなく、油絵の具を使った美術魚拓(直接魚拓)の制作方法を紹介する。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース関東版 編集部 麻生雅彦)
竜の子会で美術魚拓に初挑戦
今年、発足61年を迎える美術魚拓の名門「竜の子会」の特別例会にお邪魔した。この日、初心者代表として挑戦するのは、今年社会人になったばかりの奈々恵さん。釣り好きの父親の影響もあり、興味を持ったようだ。
会長の星野龍光氏によるとお勧めの魚種はオキメバル。赤を基調とした模様が豊かで、ヒレが硬いことから初心者にはピッタリの魚とのこと。
使用する道具
用意する道具は、綿(会では青梅綿を使用)を布(絹がベスト)で包んで、輪ゴムで止めたタンポ(魚のサイズによって大きさを決める)に藍、緑、黄、赤、茶、黒、白色の油絵の具と溶き油(同会オリジナル絵の具もある)、腹の白さをだすため、日本画に使用する胡粉(ごふん)、霧吹き、化粧用スポンジ、画仙紙、マスキング紙、刷毛、目入れ用細筆、裏付け用スプレー糊に、カッター、定規、ティッシュペーパー。
作成の手順
いよいよ生まれて初めての美術魚拓作成に挑戦だ。
1.台座に魚をセット
まず台座に、薄い板と粘土を使い、魚を水平に固定し形を決める。尾ビレを少し上部に向けると躍動感がでる。ヌメリと目玉を取り、水分はティッシュで吸収させる。
2.画仙紙を魚に密着させる
魚に画仙紙を載せ霧吹きで湿らせ、スポンジでシワを伸ばしながら密着させる。さらに、ティッシュで水分をとる。
3.ベースの黄色をタンポでたたく
発色効果を高めるため、ベースになる黄色の油絵の具を大きめのタンポに、付け魚体に沿って軽く打っていく。
4.何回もたたき濃淡を出す
次に黄色の上に赤茶色を中型タンポで重ねていく。オキメバル特有の縞模様は、型紙を使い黒色で着色する。コツはタンポをこまかく何度もトントンたたいて濃淡をだすこと。
背ビレも一本ずつたたいて色着け。再び画仙紙を湿らせ、魚からゆっくりはがす。この時点でほぼ、魚拓らしくなってきた。奈々恵さんは、会長や斎藤先生指導のもと慎重に、根気よく制作していく。
昼食後は背ビレの間を細く楕円に切った型紙を当て、上部を黒、下に赤を小さなタンポで打つ。いわゆる膜打ちと呼ばれるもの。その後はお腹の表現とし胡粉を溶かして白色をのせていく。この作業で、より立体的になり、魚に生命感が宿ってきたように見える。
5.目を描き入れる
最後は目を描く魚拓のクライマックス。魚に命を吹き込む作業で、作者の個性が最も表現される部分だという。細い筆を2種類使い、光を反射させた黒い瞳と外側の丸い輪郭、白目の部分はうっすらと黄色をのせるという超微細で手が震える作業だ。
この日初めての奈々恵さんには、難易度は高いが、ここはあえて挑戦してもらった。齊藤先生に手本を描いてもらい、それを一回試し描きしてから一気に目を入れた。
会長や先生含め「とても素直で優しい目に描かれている」と、その出来ばえに大絶賛。やはり人柄が表れるのだろうか。
そして色紙に最後に魚拓を貼り付ける裏打ち。本来なら、一日乾かすのがいいとされるが、この日は時間内に完成させることにした。
6.色紙にあわせ余分な紙をカット
絵の具の着いた紙を慎重に霧吹きをかけシワを伸ばし、色紙にスプレー糊を噴射して、丁寧に貼り付ける。定規とカッターで余分な紙をカットすると色紙の枠の細い金箔の縁が出た瞬間、メバルが光輝きまるで泳ぎだすかのように見えた。美術魚拓は驚くほど美しい。
様々な魚で美術魚拓を作ろう
この日参加した入会したばかりの牛島さんは、前日に東京湾で釣ったアジで制作。
ほか小ダイにクロダイ、そして沖縄の県魚・タカサゴなどが持ち込まれ作成されていて、じつに見事なものであった。83歳の会員、坂井さんは自動車免許を返納し、釣りを引退して現在は魚拓一筋。「終わりなき創作意欲こそ、健康で長生きの秘訣です。」と笑顔で語っていた。
美術魚拓の奥深い趣味を、釣った魚の思い出として釣り人にチャレンジしてほしい。子どもには貝がらが簡単に制作できるようだ。月2回例会があり、子ども(小学生以上)の体験は無料で、大人の体験教室は一人¥1000。一週間前に予約が必要。手ぶらで体験できる。
なお、竜の子会の会員作品展が10月22日(火)から27日(日)まで新宿御苑アートギャラリーで開催される。会員募集中。
<週刊つりニュース関東版 編集部 麻生雅彦/TSURINEWS編>