ハナミノカサゴは大きな鰭が美しい海水魚です。しかし背鰭・腹鰭・臀鰭の棘に強い毒があり、刺されると危険なため、注意が必要な魚でもあります。そしてハナミノカサゴについてはもう一つ問題があります。なんとアメリカ大陸東岸、カリブ海のサンゴ礁が危機的な状況にあり、それにもハナミノカサゴがかかわっているといいます。何故なのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
ハナミノカサゴとは
ハナミノカサゴ(学名Pterois volitans)はスズキ目・フサカサゴ科の海水魚。東インド洋~西太平洋に生息し、日本においては主に千葉県以南の太平洋岸から琉球列島にかけて見られるもので、同属のミノカサゴよりも南方性の魚です。
よく伸びた背鰭棘と胸鰭を有しており、これらを広げた姿は非常に格好いいものです。
毒棘に注意
ハナミノカサゴは背鰭と胸鰭が非常に大きく、背鰭の棘条と胸鰭の軟条がよく伸長していて優雅なものです。しかしそんな優雅な背鰭棘のほか、腹鰭・臀鰭の棘条には強い毒があり、刺されると痛みます。
一方胸鰭や尾鰭は軟条のみからなり、棘条はなく無毒です。ハナミノカサゴが釣れた際にハリをはずすときや、ハナミノカサゴを捌く際には注意が必要です。
もちろん同様のことは同じミノカサゴ属のほかの種、ミノカサゴやネッタイミノカサゴなどにおいてもいえます。
ハナミノカサゴの近縁種
ハナミノカサゴの含まれるフサカサゴ科のミノカサゴ族(ミノカサゴ亜科とすることもある)はノコギリカサゴ属、ヒメヤマノカミ属、セトミノカサゴ属、エボシカサゴ属、そしてミノカサゴ属の5属29種からなり、すべての種がインドー中央太平洋のサンゴ礁域からやや深い海に生息しています。
ミノカサゴ族の中でももっともよく知られた属であるミノカサゴ属はハナミノカサゴのほか、キミオコゼ、ネッタイミノカサゴ、ミノカサゴなどが知られています。
日本産の近縁種としては、族・属の標準和名にもなっているミノカサゴという種がよく似ています。見分け方としてはハナミノカサゴは背鰭および臀鰭の軟条部と尾鰭に黒色点が多数散らばっていますがミノカサゴではこの黒色点がないかあっても少ないこと、ハナミノカサゴでは胸部に模様があるのにミノカサゴでは模様がないことなどで容易に見分けられます。
このほか、海外に分布するハナミノカサゴに極めてよく似ているものに?Pterois miles?というのがいます。この種は基本的にインド洋産の種であり、日本近海と東インドー太平洋にいるのはハナミノカサゴのほうになりますが、外見からの種の識別は難しいです。
ハナミノカサゴを食する
ハナミノカサゴをはじめ、ミノカサゴ属の魚は食用としても用いられます。四国においては「きみ」または「きみおこぜ」という名前で販売されていることもありますが、標準和名でキミオコゼという種もいますので注意が必要です。
キミオコゼは四国以南で見られますが、四国では数が少なく食用としてはほとんど流通していません。四国で水揚げされ食用となっているのはみなミノカサゴまたはハナミノカサゴです。
身は焼き物や揚げ物などにして美味しいのですが、調理するときに有毒である鰭棘に刺されないように注意する必要があります。お店によっては鰭の棘をあらかじめ切って販売しているところもあります。
ハナミノカサゴの引き起こす問題
ハナミノカサゴは日本近海をふくむ東インド洋~太平洋に生息していますが、現在はアメリカ東海岸の西大西洋~カリブ海にも移入され生息。ハナミノカサゴは幅広い生息環境に適応しており、動物食性であるため魚などを捕食してしまうというわかりやすい影響が考えられます。
サンゴ礁に悪影響
また、ミノカサゴ以外の動物食性の魚、つまりはフエダイやハタ科の魚と餌が競合しています。例としてハタ科ユカタハタ属のコニーよりも著しく成長が早く、また消費する餌の量もはるかに多いとされます。
そしてサンゴ礁そのものにも大きな影響を与えるおそれがあります。ハナミノカサゴが藻類食性の魚を食べてしまうと、サンゴに生える藻類の大量発生によってサンゴが藻類に被われてしまう可能性があるのです。
藻類を好んで食べる魚により藻類の大発生を抑えられてきたのですが、藻類食の魚がハナミノカサゴに捕食され減少、それによりサンゴの生育に悪影響をおよぼすことが危惧されます。
もともと大きく壊されてきた同海域のサンゴ礁域で、サンゴの生育に悪影響が及ぶということになれば、同海域のサンゴ礁が壊滅するおそれもあるわけです。サンゴ礁のコミュニティはバランスが保たれて成り立っていたのですが、ハナミノカサゴがやってきてそのバランスが崩れてしまいました。
ダイバーにリスク
また、ハナミノカサゴが移入されたカリブ海というのはダイビングなど、マリンレジャーが人気の海域ではありますが、お客さんがハナミノカサゴに刺されてしまう可能性もあります。実際にバハマのナッソーなどではハナミノカサゴに注意するよう看板が出されているようです。
カリブ海から西大西洋地域のハナミノカサゴの出現は飼育個体に由来するのは確かなようですが諸説あり、ハリケーンの際にハナミノカサゴを飼育していた水族館が損壊しそこから逃げ出したとか、飼育しきれなかったアクアリストが海に逃がしたとかいわれています。
ミノカサゴ属の魚は(ほぼ)すべての種が観賞魚として飼育されていますが、ミノカサゴに限らず飼育していた魚を海に逃がすようなことは絶対にやめましょう。
参考文献
Morris James (Jr.)(ed.) 2012. Invasive Lionfish: A Guide to Control and Management.
Gulf and Caribbean Fisheries Institute, Inc. Florida.113 pp.
Smith M.M. and P.C. Heemstra (eds.) 1986. Smiths’ sea fishes. Springer-Verlag, Berlin.ⅩⅩ+1047 pp.
<椎名まさと/サカナトライター>