世界には魚介を発酵させた料理が多々ありますが、中でも発酵時に「アンモニアの発生」を伴うものは風味が強烈なことで知られています。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
世界で2番目に臭い料理
我々はどんなものにもランキングを付けて話のネタにするのが好きですが、食通の間で度々話題に登るランキングが「世界の臭い料理ランキング」。臭さの感受性には個人差があり、どれが臭いというのを決めるのは簡単ではないですが、アラバスターという物体の臭気を測る装置で測定した「臭気度」でつけたランキングが広く知られています。
その臭気度で、世界2位を誇る食材が「ホンオフェ」。これは韓国語でエイの刺身という意味なのですが、ただの刺身ではなく、常温において発酵させたものです(発酵させないホンオフェもある)。
エイの身には尿素という成分が大量に含まれているのですが、彼らが死ぬと体内の微生物の力でこれがアンモニアに変質します。結果として他の細菌が活動できず、腐敗しなくなるため保存が効くのですが、それはそれとして口に入れると強烈なアンモニアの匂いにむせてしまいます。
本場韓国でも食べられない人が多いほど強烈なのですが、現在でも南部の一部地域で伝統料理として愛されています。
エイがあるならサメもある
さて、実はこのホンオフェとよく似た料理が、北欧アイスランドでも食べられています。
その料理とはハウカットル(ハウカール、ハカールとも呼ばれる)。こちらはエイではなく、サメの一種のニシオンデンザメで作られる発酵食品です。エイとサメはいずれも軟骨魚類であり、浮力調整のため筋肉中に尿素を含むのも共通しています。そのためサメでも同じような保存食が作れるのです。
ハウカットルも現地では食べられない人も多い食材なのだそうですが、こちらも伝統的食材として今でも作られています。
日本にもあるサメ食文化
さて、世界に冠たる魚食国家であり日本には、これらの食材のような「アンモニアの発生」をともなう発酵魚介料理は果たしてないのでしょうか? 安心してください、きっちり存在します。
中国地方の山間部では、古くからサメが食材として愛されてきました。これはもちろん食味が良いことも理由ですが、それ以上に「保存性が高かったこと」があるのではないかと考えられています。サメはアンモニア臭さえスルーできれば、生のまま長期間保存できる貴重な魚介類なのです。
現在ではきっちり冷蔵してアンモニア臭を出さないサメ肉が流通していますが、かつてはアンモニア臭いサメ肉が食べられており、当時を知る古老の中には「アンモニア臭くないサメなんてサメじゃない」という人もいるのだとか。
ちなみに筆者はエイ、サメの発酵を自分でも試してみたことがありますが、たしかに生のまま放置しても食感は落ちず旨味も感じられましたが、それ以上にアンモニアの香りと戦い続ける苦しさを感じました。珍味と呼ぶにはややハードルの高いものですが、皆さんも機会があれば是非試していただきたいです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>