水質汚濁の元凶としてのイメージも強い「洗剤」。みんなで使うのをやめたら、果たして水はきれいになるのでしょうか。
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福岡で「脱洗剤」の社会実験が実施
玄界灘に浮かぶ福岡県の離島・地島。この島で先日とある「実証実験」が実施されました。
その実験とは、生活に使う洗剤などの洗浄剤を、すべて「せっけん(石鹸)」に切り替えるというもの。洗剤やせっけんを含む生活排水が、環境や生物にどのような影響を与えるかを調査するのが目的で、同県に本社のあるせっけんメーカーによって行われました。
実施されたのは昨年の9月からの3ヶ月間。この間、すべての島民が洗濯などに用いる洗浄剤を、主に石油由来の「合成洗剤」から天然由来の「せっけん」に切り替えました。
その結果、海に流れ出た化学物質の量が減少し、また汚れた水を浄化する微生物の量や種類が増加するなどの結果があったと発表されています。
琵琶湖でも同様の実験
さて、実はかつて同様の社会実験が、より大きな規模で実施されたことがあります。実験の舞台となったのは、日本最大の湖である琵琶湖を持つ滋賀県。
かつてそのまま飲めると言われたほどに水質が良かった琵琶湖ですが、高度成長期に家庭排水などによる汚濁が発生。1977年には淡水の赤潮が発生し、沿岸では悪臭などの公害に悩まされたのです。
そしてこのとき、赤潮が出るほどに富栄養化してしまった原因が「合成洗剤に含まれるリン」にあるとして、県民が主体となり、リンを含む洗剤の使用をやめ、天然油脂を主原料とした粉石けんを使おうという運動が始まりました。
この運動は徐々に規模を拡大し、最終的には1979年の「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(富栄養化防止条例)」の制定へとつながる大きなムーブメントへとなりました。
洗剤も成分が改善されている
ところで、実際のところ洗剤はそれほどに環境に悪い存在なのでしょうか。
洗剤は「合成洗剤」という言葉もある通り、化学的に製造されたものというイメージが我々の中にはあります。一方でせっけんは「昔ながらのもの」というイメージもあり、天然のものという認識が強いです。そのため現在でもしばしば、合成洗剤は水質汚染の最大の原因と考えられています。
ただあまり知られていませんが、上記の出来事などを経て、メーカーの努力により現在販売されているほとんどの合成洗剤には、富栄養化の主因であるリンが含まれなくなっています。
加えて現在、新たに洗剤を製造する際には生分解性にすぐれた成分を用いるのが基本となっているそうで、自然環境下に及ぼす悪影響は少なくなっているといわれています。
せっけんや洗剤の生産者団体である「日本洗剤石鹸工業会」によれば、上記のような理由から、下水道が整備されていない地域においても、河川水中の界面活性剤濃度が増加するなどの問題はこれまでに起きていないということです。
というわけで、せっけんを使用することで環境汚染が改善されたというデータもあれば、洗剤が環境に悪影響を及ぼす可能性は低いというデータもあるというのが現状です。今回実施された脱洗剤実験に関する、さらなる詳細なデータが発表されるのを待ちたいですね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>