釣りの対象魚や天ぷらネタとして親しまれているハゼ。身近な釣り場で狙える魚のイメージがありますが、正月になると一転して高級魚になることもあります。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
三河のおせちに欠かせないハゼ
天ぷらネタとして有名なハゼ(マハゼ)。このハゼを使った「おせち料理」作りが、愛知県豊川市で始まりました。
作られているのは、三河地方のお正月に欠かせないとされる「ハゼの甘露煮」。ハゼの顔が「翁」の能面に似ていることから「長寿を連想させる」ということで縁起物になっており、珍重されてきたそうです。
大型のハゼを焼干しにし、臭み消しにお茶の葉を炊き込んで作る甘露煮は出汁の味が身にたっぷりと染み込み、高級感溢れる味。最近では漁師が引退したため、釣り人から材料を購入するということもあるそうです。(『正月の縁起物「ハゼの甘露煮」作り始まる 愛知・豊川市』中京テレビニュース 2020.12.4)
各地で正月用に珍重される
一年魚であるマハゼは春に生まれ、年末にかけて最も大きくなります。大きく成長したマハゼは頭や尾びれが大きくなり、骨が強くなり素晴らしい出汁が出るようになります。
そのため、三河地方に限らず、大きく成長し産卵のために深場に落ちる「落ちハゼ」を正月料理に使う地域は少なくなりません。特に福岡や仙台では、落ちハゼの焼干しが、伝統的に「雑煮の出汁」に用いられてきました。
仙台では年末になると、焼き干しにしたを藁で束ねたものが売り出されます。ときに1匹1,000円程度と大変高価になることもありますが、人気商品であっという間に売り切れてしまうそうです。
冬の大物は繊細な釣り物
夏から秋にかけて、浅い場所に棲み貪欲で餌をよく追い、初心者でも簡単に釣れるのがマハゼ。しかし「落ちハゼ」を狙う場合、そう簡単にはいきません。
大きくなるとマハゼも警戒心が強く数も減るため、なかなか思ったようには釣れないのです。産卵のために深場に落ちるとアタリも小さくなり、名人たちが技を競う繊細な釣り物になります。
甘露煮や雑煮に用いられるような20cmを超えるものは、鰭も黒く顔つきにも威厳が出てきます。そういったハゼを釣り、自家製甘露煮を作るのもまたオトナな楽しみと言えるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>