日本でもよく知られた熱帯魚・グッピー。ラテンアメリカ原産で低水温に弱い魚ですが、実はいま日本でも「外来帰化生物」として問題になりつつあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
福島の水路でグッピーが繁殖
福島県福島市瀬上町の住宅街にある水路で、熱帯魚のグッピーが繁殖しているのが見つかり、話題となっています。
同市在住の夫妻が水路で小魚を網ですくった際、鮮やかな体色をした魚とメダカに似た魚が捕れ、ペットショップに持ち込んで確認したところ、グッピーだということがわかったそうです。
鮮やかな個体のオス、メダカに似た個体のメスが同時に捕獲された上に、腹の大きなメスや稚魚も多数確認され、繁殖している可能性が高いということもわかりました。
環境省では、今回のグッピーの移入・定着の経緯は不明としながらも「在来種のすみかなどを奪う恐れがあるので、グッピーを捨てないでほしい」と呼び掛けています。(『野良グッピーが繁殖…飼育「責任持って」 福島・住宅街の水路』福島民友新聞 2020.10.8)
グッピーが定着した理由
近年、ペットとして飼育されている動植物が逸出し、「帰化生物」として定着する例が増えています。しかし今回のグッピーは中南米原産の熱帯魚で、低水温に弱く、日本の自然環境下では基本的に生きていくことができません。なぜ東北地方である福島で定着が確認されたのでしょうか。
実はグッピーには「水の汚染に強い」という特徴があります。近縁種でこちらも外来種として問題になっているカダヤシと比べても、グッピーは止水環境に多く棲息しており、また地域によっては下水に定着している例も見られています。
現在ではグッピーは、北海道から沖縄に至るまで定着が確認されています。これらは「野良グッピー」と呼ばれており、似た性質を持つ在来種・メダカの生態上の驚異になる可能性を指摘され、要注意外来生物にも指定されています。
日本中に熱帯魚が定着する?
実はこの「野良グッピー」、筆者も捕獲したことがあります。
場所は下水処理場からの排水が利根川に流れ込むポイントで、1年中安定して30度近い高温が保たれている生活排水が、グッピーを始めとする外来生物の繁殖の要因となっていることが容易に想像できました。
我が国ではほかにティラピア、プレコなどといった熱帯魚が帰化していることが確認されています。いずれも現時点では沖縄や温泉地等の特殊な環境のみですが、このまま温暖化が進み、生活排水の温度も高止まりしていれば、やがて全国各地の河川に熱帯魚が定着していくことは火を見るより明らかです。
帰化した熱帯魚がすぐにその河川において不可逆的なダメージを及ぼす、ということはあまり考えられませんが、それでも貴重な日本淡水自然を守るため、注意して観察をしていくことは大切でしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>