見た目はまるで「ボラ」だけど美味なマニアック魚『メナダ』とは

見た目はまるで「ボラ」だけど美味なマニアック魚『メナダ』とは

実情はさておき「まずい魚」として知られるボラ。そんなボラに酷似していながら、味や旬、価格がまったく違うレアな魚が存在することをご存知でしょうか。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

アバター画像 TSURINEWS編集部

サカナ研究所 その他

どこにでもいる「ボラ」

日本三大珍味の一つ、からすみ。このからすみの親として知られる魚がボラです。東京湾など内湾に多く棲息し、街中の水路や運河でもよく見かけるほか、ときに大挙して河口に押し寄せてニュースになることもあり、知名度は決して低くはないと思います。

見た目はまるで「ボラ」だけど美味なマニアック魚『メナダ』とはボラの稚魚(提供:野食ハンマープライス)

ボラはまずいサカナ代表?

しかしこれほど身近なサカナなのに、食べたことがあるという人はあまり多くないかも知れません。実はこのボラは、海底の泥の中に含まれる有機物を食べるという習性があり、水質の影響を大きく受けてしまうサカナなのです。そのため日本近海の水質が急激に悪化した高度経済成長期以降、「まずいサカナ」として認識されるようになってしまい、食材として見られなくなっていった、という悲しい過去があります。

しかし、本来ボラは美味しい魚。世界では養殖も行われている地域もあるほどで、現在でも水質の良い外洋で採れたボラは食用にされています。旬の冬には脂が乗り、刺身などでも食べることができます。それでも昔は高級魚として扱われたこともあったようですが、現在では安い庶民の魚といった印象です。

ボラそっくりなレア魚「メナダ」

さて、このボラと同じようなところに棲み、同じような生態を持ち、見た目までそっくりな魚がいるのですが、ご存知でしょうか。それがこちら。

見た目はまるで「ボラ」だけど美味なマニアック魚『メナダ』とは大きいと1mを超える(提供:野食ハンマープライス)

この魚はメナダ。ボラ同様全国の内湾に棲息しています。魚に詳しい人でも注意していないと見分けられないほどよく似ていますが、目が金がかった黄色に輝いており、また口もよく見るとやや赤みがかっているため、ここでボラと区別することができます。これらの特徴から「アカメ」「朱口(シクチ)」と呼ばれることが多く、正式和名のメナダという名前で呼ばれることはあまりありません。

見た目はまるで「ボラ」だけど美味なマニアック魚『メナダ』とは目と口が特徴的(提供:野食ハンマープライス)

メナダはサイズを問わずボラと一緒になって回遊しているようで、ボラを狙った漁や釣りで混ざることがあります。しかしその数は圧倒的に少なく、有明海以外では極稀に混ざる程度。筆者は20年以上関東の魚市場や魚屋を見てきていますが、まだメナダを見かけたことはありません。

見た目はそっくりだが味は大きく違う

そんなボラそっくりのメナダですが、しかし見た目と生態以外はあらゆる点で真逆と言ってもいい存在です。

まず、食性はほぼ同じであるにもかかわらず、メナダは臭いといわれることがほとんどありません。旬もボラとは真逆の夏なのですが、この時期になると身全体にしっかりとした脂が乗り、捌く包丁がべとつくほど。ボラの皮目にある独特のわらのような匂いも、メナダからはほぼ感じられません。

このような特徴から、有明海や瀬戸内海など比較的水揚げの多い地域ではボラと明確に区別されており、価格も倍以上することがあります。有明海では高級魚扱いをされており、刺身用の活け締めも流通しています。

見た目はまるで「ボラ」だけど美味なマニアック魚『メナダ』とは身質、味ともに抜群(提供:野食ハンマープライス)

生食はもちろんのこと、身質が柔らかく貝柱のようなほぐれ方をするので蒸し物や塩焼きにしても美味しいです。骨から良い出汁が出るので鍋にしてもグッド。ボラと違ってあら全体をしっかり煮込んでも臭みが出ることはありません。

ぜひ食べてみてください、と言いたいのですが、有明海、瀬戸内海、三河湾の沿岸以外では水揚げが少ないのが残念なところ。少なくとも関東では、今の所鮮魚の入荷はまずないと言っていいでしょう。ただ前記の通りボラと混同されていることはあるので、もし市場や魚屋でボラを見かけたら、目の色を確認してみると面白いかも知れません。(ボラ自体も美味しい魚なので、食べたことがない人は是非トライしてみてください!!)

<脇本 哲朗/サカナ研究所>